~お客さまとの対話から本当の使いやすさを追求した、
モノづくり~
ユニバーサルデザインコンロ「Udea」
DEVELOPER INTERVIEW
開発者インタビュー
お客さまとの対話から本当の使いやすさを追求した、モノづくり
ユニバーサルデザインコンロ「Udea」
「あらゆる人に使いやすい」をコンセプトに開発された、ユニバーサルデザインコンロ「Udea(ユーディア)」。「あなた(You)に親愛(Dear)な」と「Universal Designなideaを」という2つの意味から生まれたネーミングのとおり、多くのユーザーの皆さまに何度もご意見を伺って、約2年の開発期間をかけ、課題を1つずつ解決して生まれたガスコンロです。「かんたん」「らくらく」「あんしん」をカタチにしたフラッグシップモデルと位置付けされ、その後の商品開発に大きな影響を与えているとも評されています。本当の使いやすさを追求した、いままでにないモノづくりについて尋ねました。
MEMBER
リビング事業部 リビング技術部
-
商品開発チーム 調理・暖房
グループ チーフ 課長
正田 一貴
超高齢化社会に向けて、
ガスコンロの未来を考える
2004年にコンロの機能や性能を大きく進化させた「クラスSプレミア」を商品化した際に、高齢者の方を中心に使いこなすのが難しいというお声をいただくことがありました。ましてや世の中は、65歳以上が3割を占める超高齢化社会が目前と取り沙汰されていたときなので、高機能ばかりでなく使いやすさにも配慮していたのですが…。また家電製品を改めて見直すと、使いやすさへの配慮がかなり行き届いているように感じました。そこで、いま、来るべき超高齢化社会に向けて、本当に使いやすいガスコンロに取り組まなければならないときだと確信したのです。それは、開発チーム全体の気運ともなり、ガスコンロの未来をつくるテーマとして皆が認識し始めました。
ところが、使いやすさだ、ユニバーサルデザインだという認識はあるのですが、さてどう取り組めばよいのかが問題となりました。当時、この使いやすいガスコンロというテーマに非常に熱心な女性スタッフがおりまして、彼女が「デザイン専門誌に紹介されていたユニバーサルデザインのコンサルタント会社に思い切ってアポイントを取ったところ、相談に乗ってくれるそうです」と報告してきました。このデザインコンサルタント会社(トライポッド・デザイン株式会社)は、独自のユーザー参加型のデザインプロセスを開発されていて、その実績が雑誌に紹介されていたのです。そして、その手法の通り、ユーザーと徹底的に向き合った調査が始まりました。
のべ75名のお客さまと一緒に、
使いにくさを発見する
開発過程で、のべ75名のユーザー調査を合計4回実施しました。製品や製品開発のためのプロトタイプを実際に点火からごとくを洗うまでの一連の動作を行っていただく、シーケンス調査です。インタビューに加えて、モニターの方の動きをカメラとビデオで記録。そして使いにくい点や不満に思う点を検証/分析して改善すべきポイントを抽出します。
この調査には、小学生からご高齢者までの幅広い年齢層に加えて、視覚・聴覚・手指障がいの方々をご協力いただいています。特に障がいをお持ちの方は、何が使いやすいのか使いにくいのかにとても敏感で、繊細な感覚をお持ちです。ここで注意しなければならないことは、ユニバーサルデザインとバリアフリーデザインの違いです。ある障がいをお持ちの方にだけ使いやすいものを作ると、それはその方だけにマッチするものになる、これがバリアフリー。一方、ユニバーサルデザインの考え方は、たとえば車いすの方が道路で困る状況は、ベビーカーを押して街を歩いたときにも当てはまる。手が不自由な方がコンロを使うときは、健常者が菜箸を持ったままの状況や、赤ちゃんを片手に抱いた状況と同じなのです。多様な人を調査することでカバーできる範囲を広げる、つまりできるだけ多くの人の使いやすさを求めることがユニバーサルデザインです。
ユーザー調査の第1回目に、ある全盲の方が手慣れた様子で調理をしながら「天ぷらも揚げるんです」と平然とおっしゃいました。その場にいたスタッフ一同大きな衝撃を受け、目の見えない人にも安心して使えるコンロを作ろうという明確な目標ができました。
また予想もしない発見が多数ありました。たとえば「Udea」には、モノラルスピーカーを前面の中央に2つ設置しています。それまでのガスコンロでは、スピーカーの位置にそれほど気を配っていなかったのですが、ユーザーの方がコンロに顔や耳を近づける様子を見て驚き、そして導き出した聞き取りやすいスピーカー配置が採用されています。これは、片方だけ聞こえにくい方のためだけではありません。テレビの音や話し声などでうるさくて片方向が聞こえにくい、日常よくある状況でも安心なのです。
コンロ前面の左右に配置したダブルスピーカー方式を採用
たった1つの配慮不足で台無しに
なってしまう、商品化の難しさ
「Udea」のデザインと性能は、あらゆる人の使いやすさを求めて試行錯誤を重ねた結果です。たとえば天面に配置された操作パネル。従来のコンロは前面にありましたが、「Udea」ではそれまでのガスコンロでは実現していなかった天面タッチ操作を採用しました。また身長180センチの人から車いすの人までどんな高さからも使いやすくするために約10°の傾斜を設けました。そのパネルも、スイッチの大きさや表示内容、LEDの配色、仕上げ感にかなりこだわり、直感的に!覚えやすく!を目標に、文字は大きく、画数の多い文字は避けています。操作を元に戻すボタンも「とりけし」と表示することにしました。 点火ボタンの配色ひとつにも、さまざまな状況やあらゆる人に見やすくするために、ガス機器メーカーや前述のデザインコンサルティング会社などと何度も協議をし、検証を重ねています。(下図参照)
点火ボタンの配色組み合わせの検証サンプル
また音声ガイダンスのみの調査も実施しています。先に音声ガイダンスシステム付きのコンロを発売していたので、それなりの自信があったのですが、不足している情報がありました。「天ぷら温度を設定できます」だけを音声ガイダンスをして、設定した温度は音声でお知らせしていなかったのですが、それが、何度に設定できたのかどうかわからないという不安感や違和感を生じさせていました。見にくさを音声で補うことは重要なことです。
これらのことから、使いやすさは小さな安心感の積み重ねなのだと実感しました。この項目は音声でアナウンスしなくても大丈夫とコスト面を考慮して削除していましたが、調査を通して必要な情報だと認識しました。そして反対に、1つの抜け落ちのエラーだけで、すべてが台無しなってしまうことがあるという商品化の難しさを感じ始めました。使い勝手を考えていくと、いままでコストの面でドロップしていたことも必須項目になります。あれもこれもとやりたいことがたくさんあったことも事実で、完成にこぎつけることがともかく難しいと感じていました。
お客さまの期待を裏切らないための、
ユーザビリティの底上げ
開発は、ユニバーサルデザインという考え方が固まっていない状態から始めたので、商品開発とともにガイドラインの策定も必要でした。しかし文字の見やすさひとつでも数値化できないのです。12ポイントの明朝体と10ポイントのゴシック体を比べたとき、どちらが見やすいですか。小さくても見やすければよいのです。(下図参照)
色やコントラストなど複雑な要素が絡み合うことなので、いろいろな条件を満たすプロセスが重要です。だからこそ、ガイドラインを守るための使いにくさを見つける技術と解決する技術をいまもスタッフに伝えています。このガイドラインは、いまも私をはじめスタッフにとってかなり意識改革になり、その後の商品開発に大きく役立っています。
「Udea」は、フラッグシップモデルというよりもっと大きなガスコンロやガス機器商品全体のユーザビリティの底上げを果たしたと思っています。家電メーカーや世の中では当たり前になっていたユニバーサルデザインに象徴されるユーザビリティという考え方の重要性を、社内外に発信できたのではないかと考えています。ユーザーと接点すべてがこのレベルにならないといけない、その考え方は取扱説明書にまで及んでいます※。このユーザビリティの底上げは直接的に販売の増加につながるものではありませんが、お客さまの声から使いやすさを追求する取り組みを行ってよかったと思っています。
「Udea」をベースにした「Udea ef(ユーディア・エフ)」もその後発売しましたが、売れ行きも好調です。これからも「使いやすい!気が利いている!」と思ってくださるお客さまが増えるとうれしいですね。
- ※日本マニュアルコンテスト2008操作マニュアル第1部門で「部門最優秀賞」を受賞しています。
軍手を重ね指の動きを規制して、握りやすさを検証
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