~我慢しないで省エネができる快適な暮らしをめざした
居住実験~
スマートエネルギーハウス
DEVELOPER INTERVIEW
開発者インタビュー
我慢しないで省エネができる快適な暮らしをめざした居住実験
スマートエネルギーハウス
いま、家庭でのCO2排出量削減と便利で快適な暮らしを両立させる「スマートエネルギーハウス」の開発が進んでいます。2011年2月から開発者自らが家族とともに暮らし、省エネ性、利便性、快適性を検証する居住実験が始まりました。今回は、開発の主担当であり、居住実験住宅の居住者でもある山下さんに、燃料電池・太陽電池・蓄電池の3電池システムと先進の住宅設備を集めた「スマートエネルギーハウス」での暮らしぶりについて尋ねました。
MEMBER
エンジニアリング部
-
スマートエネルギーハウス
推進室
山下 真
自ら暮らしながら試作システムの
効果検証・改良を行う
奈良県の王寺にある居住実験住宅は、延床面積約140m²の4LDK。私と妻と幼稚園に通う息子の3人で暮らしています。この居住実験住宅は、このような次世代型住宅の普及が見込まれる2015年頃の新築住宅を想定しており、これに見合った住宅断熱性能を備えるとともに、現状最新の省エネ家電や節湯機器を導入しています。特にこの居住実験住宅のエネルギーシステムの中心となるのが燃料電池、太陽電池、蓄電池を組み合わせた3電池システム。今回の居住実験では、3電池の最適制御やエネルギーの見える化等によりどの程度の導入効果があるか検証を行うとともに、課題の抽出や改良を随時行っています。また、このような省CO2と快適性を両立させる暮らしを目指すにあたり、積水ハウス株式会社様からハウスメーカーとしてのご知見やご意見をいただきながら共同で評価を進めています。
居住実験住宅のモニターに、私が選ばれたのは、想定していた家族構成に比較的近く、さらに開発の主担当であり、以前も大阪市内の上本町にある未来型実験集合住宅「NEXT21」に住んでいた経験があるからです。息子の友達も遊びにやって来る、夜更かしもする、暑さや寒さを我慢せずに快適に過ごす、そんなごく普通の暮らしを送りながら居住実験を進めています。
2015年頃の新築住宅を想定
(断熱性・省エネ家電・節湯機器等)
3電池を活用しエネルギーを最適に
マネジメント
私の開発者としての最も重要な技術課題は、電気だけでなく熱も含めたトータルなエネルギーマネージメントです。あまり知られてはいませんが、家庭で使うエネルギーの約半分は給湯や暖房に使う熱エネルギーで占められています。そこで、スマートエネルギーハウスでは効率的に電気と熱を創り出すことができる燃料電池を核とした3電池システム(燃料電池、太陽電池、蓄電池)が活躍します。燃料電池は低出力運転では効率が若干低下してしまうため、深夜などに燃料電池であまった電力を蓄電池に充電し、逆に電力が不足するピーク時間帯に蓄電池の放電を行えば、燃料電池の出力を低下させることなく、効率を更に向上させることが可能になります。
ところが、ここからが本当の技術課題になるのですが、実は電気は、一度、蓄電池に充放電するとロスが発生してしまいます。そこで、燃料電池の発電電力を効率よく蓄電池に充電するための蓄電池の最適制御が重要になってきます。しかし、当時、家庭用の燃料電池はまだそれほど普及しておらず、家庭用蓄電池というものの認知度も低かったため、住宅において燃料電池と蓄電池を組み合わせて制御することは、誰も考えていないことでした。3電池制御を最適化するというコンセプトを実現するための技術的な制御ロジックの開発、これが開発者である私に課せられた課題でした。居住実験住宅の建設が始まり、この制御ロジックを完成させなければ予定していた居住実験の開始時期に間に合わないという状況の中、連日連夜に及ぶ取り組みの末、特許も出願し、なんとか実験開始までに試作機を完成させることができました。
エネルギーの「見える化」や省エネ
アドバイスにより居住者に気付きを提供
次に重要な開発課題が、3電池システムの制御の要となり、スマートエネルギーハウスの頭脳ともいえるHEMS(Home Energy Management System)です。3電池をはじめ住宅内のさまざまな機器とつながっていて、3電池システムや家電機器の自動制御だけでなく、エネルギーの「見える化」も行います。今回の見える化では、蓄電量や貯湯量や消費電力量だけでなく、家庭で消費されるエネルギーのうち、どの程度3電池からのエネルギーで賄えているかを示す「エコエネ率」という指標も採用しています。3電池を有効に活用できていると、「エコエネ率100%」と表示されるわけですね。このHEMSを表示するタブレットPCをリビングのテレビの横に置いて、いつも見える状態にしておき、実際の居住状態での評価・改良を行っています。
リビングでHEMS画面を確認
このHEMSの評価・改良を行うにあたり、重要となるのが専業主婦である妻の一般ユーザーとしての意見です。「HEMSの画面にたくさんの数字があるけれど、本当に必要かしら?」とか「でも家の外の気温が表示されるのは、便利!」と報告を受けることもあります。外気温がわかると、エアコンではなく、窓から風を入れて室温を下げたり、今日は寒いから温かくして外出しようとしたりするようです。
また、私が指示したわけではなく、目につくところにあるためか、妻はエコエネ率を下げないように消費電力のピークを立てないよう意識して家電機器の使い方を工夫して家事をしているようです。上手くやりくりできたら達成感があり、うれしいようですね。一方で、「燃料電池や3電池システムを理解できていなかった実験開始当初は、エコエネ率を意識して、電気のやりくりをしようと考えなかった」というコメントもあり、スマートエネルギーハウスをきちんと住むお客さまに理解していただくことが、いかに大切なことなのだということにも気付かされました。
このHEMSという装置、開発者の私にとっては、データを常時表示してくれる仕事道具ですので、いつ もシステムがちゃんと動いているのか、常に気にかけています。しかし、ときどき思わぬ数字が表示されていて慌てることがあります。たとえば、入居前に苦労して考えた蓄電池の制御ロジックですが、ある時期からこちらの想定通りの充放電が実現できなくなってしまいました。データを解析し、現地での調査を行った結果、気温の低下により最新家電に搭載されている省エネモードが動作し、ほんの一瞬だけ電力負荷が変動することが要因とわかり、制御ロジックを改良することにしました。これは季節が巡り、気温や室温の変化を、居住者として経験して、初めてわかることだったと思います。
住宅設備や車まで連携した自動制御を
めざして実験を繰り返す
ところで、居住実験住宅に電動シャッターや通風ファンなどさまざまな自動機器を導入していますが、これは、単に近未来の住宅ということではなく、HEMSで自動制御し、3電池システムと連携させることで、さらなる省エネや快適性の向上に結びつけようという取り組みです。2階の子供部屋では電動シャッターや電動カーテンによる夏場の日射遮蔽や冬場の日射取り込みに関する効果測定実験を行ったり、主寝室では通風ファンによる予冷効果の測定実験を行いました。一時的に子供部屋に入れなかったり、主寝室で寝ることができなかったりと生活に多少の制約は受けるものの、こういった実験を行うたびに開発者である自分が居住者であって本当によかったと痛感させられます。
子供部屋の測定実験風景
また、3電池システムと電気自動車との連携を見据えた実験も行っています。将来的には、家庭用蓄電池を電気自動車で代替することを視野に入れた取り組みです。2011年度は3電池との連携を行うために必要となる電気自動車の走行データを取得、2012年度にシステム開発や機能検証を実施することで、2013年度の総合実証試験に向けた準備を進めています。
スマートエネルギーハウスの早期実用化に
向けて
実証実験開始からほぼ1年を経て、妻が働き始めたり、子どもが幼稚園に通い出したりと我が家の暮らしも変わってきました。今回の実験結果は、あくまで1家庭のデータかもしれませんが、生活の変化とエネルギーデータの変化の関連を結びつける貴重なデータであり、今後はこの居住実験データをベースに、一般化するために必要なシミュレーションを行うなど分析を進めていく予定です。
3電池を用いた際の省エネ効果や経済メリットの更なる向上、導入機器のコストダウン、そして、3電池と住宅設備や電気自動車等を連携させていくための技術開発等、まだまだ課題は山積みです。しかし、東日本大震災以降、エネルギー政策が抜本的に見直されようとしている中、スマートハウスに対する社会の関心はここにきて一気に高まりを見せており、明らかにこれまでとは違う風が吹き始めました。この居住実験を通じ、スマートエネルギーハウスの早期実用化を目指すとともに、スマートエネルギーハウスの核である燃料電池の優位性、ガスで発電する住宅のメリットを、社会にしっかり発信していきたいと考えています。
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