~前人未到、ガス機器のクラウド接続がIoTの先駆的成功事例に
機を捉え、
柔軟な発想でブレークスルーを果たした開発チームの執念~
エネファームIoTシステムの開発
DEVELOPER INTERVIEW
開発者インタビュー
前人未到、ガス機器のクラウド接続がIoTの先駆的成功事例に機を
捉え、
柔軟な発想でブレークスルーを果たした開発チームの執念
エネファームIoTシステムの開発
2016年4月に発売した、世界最高の発電効率と世界最小サイズを実現した次世代家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファームtype S」。この機器にはもう一つ、オンリーワンの最先端テクノロジーが搭載されました。それはエネファームを「クラウドサーバ」に接続する機能です。これにより、大阪ガスが各家庭のエネファームの運転状況を遠隔から見守り、万が一の故障発生時には迅速な対応を提供できることに。さらにスマートフォンアプリによって、外出先からの“ガス機器操作”や“エネルギーの見える化”を実現しました。
着想からわずか2年という期間でこの「エネファームIoT(=Internet of Things)システム」をゼロから立ち上げた開発チームの皆さんに、その苦労と成果について、語っていただきました。
MEMBER
リビング事業部
-
商品技術開発部
スマート技術開発チーム
八木 政彦 -
商品技術開発部
スマート技術開発チーム
鈴木 智之 -
商品技術開発部
スマート技術開発チーム
髙溝 将輝 -
商品技術開発部
スマート技術開発チーム
青木 拓也
エネファームIoTシステムが実現したこと
2016年4月発売のエネファームから始まった遠隔見守りサービス。このサービスについて概要を教えてください。
- 髙溝
-
2009年に初代モデルを発売したエネファームは化学プラントのような複雑なシステムを家庭用の小型ユニットにシステム化させることで実現した機器です。そこで、この高機能なシステムをお客さまが安心してお使いいただけるよう、初代モデルの発売以来、修理・メンテナンス時の対応品質をもっとレベルの高いものにしていきたいという思いがありました。
- 鈴木
-
従来のメンテナンスでは現場でエネファームにメンテナンス用パソコンを接続し、燃料電池内部のセンサー値や運転データを取得して解析する。このような手順でエラーの原因を特定していました。でもこれだと現場での作業に時間と労力がかかり、メンテナンス担当者だけでなくお客さまにも負担を多くかけてしまうことになっていたんですね。
- 八木
-
業務用では以前から機器を遠隔監視するシステムもありましたが、家庭用ではコストが高く、なかなか実現し難い状況でした。その後スマートフォンや無線LANルータが普及したこと、無線LAN通信部品のコストが下がってきたことから、台所リモコンに無線LAN通信の部品(モジュール)を組み込めば、これまでのリモコンと見た目も施工性も変えずに遠隔見守りのサービスが提供できるのではないかと思いつきました。
- 鈴木
-
遠隔見守りサービスで一番大きな効果は、エネファームでエラーが発生したら大阪ガスのコールセンターがお客さまより先にエラーに気づいて、いち早くメンテナンスを手配できるようになったことです。これによって従来よりも早期の対応が可能になり、お客さまにはさらに安心してエネファームを使っていただけるようになりました。また、メンテナンス担当者も現場へ行く前にエラー発生原因の診断を行い、現場での滞在時間を短く済ませられるようにしています。
- 八木
-
メンテナンス業務とIoTシステムの親和性に気付き、既存のメンテナンス業務フローの中にIoTシステムをうまく落とし込む事ができたのが重要なポイントです。具体的には、お客さまにお電話するコールセンターと実際に修理するメンテナンス店がこの仕組みをどのように使っていくか、開発段階からメンテナンス部署と協力して検討を進めました。
《エネファームIoTシステム概要》
このシステムの開発にあたって、チームのみなさんはどのような役割を果たされたのでしょうか?
- 八木
-
私はチームのマネージャーをやっていまして、開発の予算・計画や進捗管理など全体のマネジメントですね。このシステムの開発には企画段階からプロジェクトとしての立ち上げ、社内外のコンセンサス、業務フローの構築などに関わってきました。
- 鈴木
-
私はチーフとしてエネファームの通信機能、サーバ、スマートフォンアプリ開発の統括、および技術的な仕様の検討をやらせてもらっています。
- 髙溝
-
私は担当として、ガス機器メーカー様との調整、エネファームが接続するサーバの開発・運用を大阪ガス側のPM(プロジェクトマネージャー)として、システムベンダーのオージス総研様と調整しています。また社内に提供しているメンテナンスシステム「GEORGE」の新規開発、関係部署との調整やリリース後の技術支援を担当しています。
- 青木
-
私はスマートフォンアプリの開発を主に担当しています。まずアプリを作るというところもそうですし、リリース後もお客さまにとってアプリがより使い勝手のよいものになるように継続して調整を行っています。
開発スタートは、世の中にIoTが普及する
前から
では本題として、このシステムの原点と言える「無線でインターネットにつなぐ」という着想はどなたからのものだったんですか?
- 八木
-
私です。まず2014年に、無線LANにはつながるけれどインターネットにはつながらない、厳密にはIoTではなく、単にスマートフォンとつながるというものを開発したんですね。その時のモチベーションは、このままだと時代に取り残されるという危機感でした。当時スマートフォンがすごい勢いで普及してきて、家電もどんどんスマートフォンにつながるという中で、ガス業界を見渡すと、まだ誰もそれをやっていない。なのでスマートフォンと連携することで新しいガス機器の価値を産み出そうと。これによりお客さまにスマートフォンアプリからガス機器の操作をしていただけるようになりました。ただ、大阪ガスとしてお客さまのガス機器の運転状況は把握できませんでした。そこで機器の運転状況を把握するために、ガス機器自身がインターネットとつながる状況を作りたいという思いがあって、無線でインターネットに接続するという発想が生まれました。今はIoTという言葉が一般的になっていますけれど、その着想に至った2014年というのはまだ「IoTって何?」というような時代です。そんな当時に独自にインターネット接続の機能を開発するのは、この後の話につながりますが、相当に苦労をしました。ガス機器というモノをインターネットにつなぎたい。これはどうやって実現したらたらいいだろうと。そこからすべてが始まりました。
社内にも社外にも、まったく前例のない取り組みだったということですね。
- 八木
-
そうですね。もともと発売前の実証試験段階では、運転状況を把握するためにエネファームをインターネットにつないでいたんです。ただし、手段は通信用のパソコンを現場に置いて、機器1台あたりにパソコン1台と通信のための周辺機器を備えるという方法。すごくお金がかかるシステムでした。これを実際に量産してお客さまに届けていくにはものすごいコストがかかることになる。そのため2009年の初代エネファーム発売当時はインターネット接続を実現できませんでした。それが後になって技術が追いつき、無線LANルータが普及し、無線LAN通信部品のコストが下がってきたことから、先にもあげたように台所リモコンに無線LAN通信の部品(モジュール)を組み込んで、インターネット接続が実現できるのではないかと。そういう状況になったのがまさに“2016年”でした。
開発を進めながら技術が追いついてくるのを待ったと。
- 八木
-
そうです。今ならいける、という技術者なりの目利きの部分ですかね。5年前でもなく、他社が動き始めてからでもなく、世の中の流れが来る半歩前に動き出していたということが結果として成功につながった。でもこれを社内調整してプロジェクトとして進めていくのには、なかなか周囲には理解してもらえない部分もあって…。
- 髙溝
-
IoTに対応したガス機器のメンテナンスシステムには前例が無く、インターフェイスをどんなものにすればいいのだろうか?というところから試行錯誤の連続でした。当時はこんなに皆さんに利用してもらえるシステムになろうとは思ってもいませんでした。今ではこのシステムが活用されている話をよく耳にもしますし、業務に無くてはならないシステムになっている現状を嬉しく思います。
- 鈴木
-
システムにつながるサーバの選定、業務フローへの組み込みなど、どの場面でも関係者との意思疎通の難しさがありました。世の中にまだ存在しないものを提案していく、その苦労はありました。
技術者の目利き力でオリジナル通信
モジュールの開発とクラウド採用を決断し、
一点突破
今回のシステム開発で、実現化へのブレークスルーとなったポイントを挙げるとすると、どの部分になりますか?
- 鈴木
-
まずガス機器専用の「無線LAN通信モジュール」を開発したところです。データを送る際には通信が盗聴・傍受されることがないようにデータを暗号化する必要がありますが、そのために必要な計算は従来の給湯器のリモコンでは困難でした。そこで「暗号化」機能を搭載した無線モジュールを一から開発しようと。それをガス機器に搭載することで、「安心・安全にインターネットにつながる」ようになる。さらにサーバとの通信に必要な機能を無線モジュール内で完結できる分、ガス機器メーカー様の開発負荷を低減できるというメリットもありました。
- 八木
-
実はIoT用に機器に組み込んでインターネットにつながるという、そんなモジュールは今でこそ様々なメーカーさんから発売されていますが、我々が開発着手した段階では国内では1社も無かったんですね。海外メーカーならいくつかあったんですが、やはり海外製の部品は供給の不安もあるし、国内メーカーに限りたい。そういった状況で半導体メーカーのローム社と元々お付き合いがあったのでお願いに行きました。「エネファームをインターネットにつなぎたい。通信モジュールを一緒に開発してくれませんか」と。大阪ガスから仕様についてプレゼンし、合意を得て、開発委託でIoTモジュールを作ってもらったんですよ。それがなんと開発を始めて数ヶ月くらいしたら、他の国内メーカーさんからも出てくるようになってね…。それでも結果的にはIoTの先行事例として、色んなメディアに盛んに取り上げていただけました。「進取の気性」で世の中の先を進んでいた訳です。
先ほどのお話では、それに加えてインフラの部分、サーバのことでも苦労をされたということでした。
- 髙溝
-
そうですね。サーバそのものは昔からあるものなので、相応のサーバを立てればよいのですが、規模の拡大のし易さとコスト面、双方をバランス良く適切に考える事が重要です。そこで「クラウドサーバ」の検討を開始しました。社内のサーバであれば接続するパソコン台数は急激には増えません。社員の数が1年で2倍になるようなことはまずないからです。ですが、IoT機器の世界では、製品が売れれば売れるほどサーバへの接続数、データ量がどんどん増大します。となると、拡張が容易な仕組みを導入しないと、従来の自社でサーバを立てる方法では維持管理、運用コストが大きくなる。しかし一方では、外部のクラウドサーバを社内のネットワークに安全に接続する必要もある。ではどういう形で接続すれば安全に導入できるか。その部分も大阪ガスの社内システムを担当するオージス総研様と議論、検討を重ねました。
- 鈴木
-
そうですね。機器からデータを送る時にはまずそれを傍受されないよう暗号化しないといけない。そしてクラウドサーバ側でも、集まったデータについて厳密に管理しながら活用できるようにしなくてはいけない。情報通信部など社内の様々な部署の協力も得ながら、セキュリティには重々配慮して開発を進めました。
- 八木
-
そして最終的に、セキュリティ、世界的な実績、将来の拡張性まで考慮して、クラウドサーバとして「Amazon Web Services(AWS)」を採用しました。オージス総研様としても外部のクラウドとの連携など初めての事だったので、開発には相当に苦労をされたと思います。
そして発売後の運用面でも、開発段階から関係部署と協力しながら万全の体制を整えたのですね。
- 青木
-
体制構築も本当に苦労をしました。まったく前例がない、そんなところからスタートしましたので。それでもIoTシステムを普及させていく事を考えたら、これを活用した万全のメンテナンス体制やお客さまからの無線LANに関するお問い合わせに対応できるコールセンターの体制構築なども絶対に外せないミッションでした。
ガス機器とIoTは親和性あり!
新たなビジネスモデルの予感
システム導入からおよそ1年半を経過して、運用面やサービスの現場でどのような反応がありますか?
- 髙溝
-
発売後、メンテナンス担当者が電話で「サーバのデータを見ると…」と話しているのをよく耳にするようになりました。その時に業務の中でIoTシステムが“自然な形”で活用してもらえているという確かな感触をもちました。修理・メンテナンス対応時の対応品質がより一層向上していると実感しています。
- 鈴木
-
大阪ガスのエネファームは販売数ではなくインターネット接続台数が現在すでに1万件を超えています。設置されたエネファームの約7割がサーバにつながっている計算になります。調査会社等の情報ではIoT対応の家電でもインターネット接続率は1~2割が多いようです。その点、エネファームのインターネット接続率が実に“7割”というのは非常に高い数字です。これはガス機器設置や点検時にお客さまとの実際の繋がりがあり、インターネット接続のメリットをお伝えできる、そういうお客さまとの繋がりを大切にしているガス会社ならではの強みもあるのかなと思います。
- 髙溝
-
今では家庭用の事業部であるリビング事業部全体が一丸となってガス機器のIoT対応をさらに進めています。実はガス機器販売やメンテナンスを行うサービスチェーンがガス機器だけでなく無線LANルータの販売まで開始しているのです。これはこれまで考えられなかった事で、私たち商品開発部署だけがIoTを進めているのではなく、みんなが同じ方向を向いてくれているなと感じています。
- 八木
-
そこが業務フローの中に組み込んだ成果だと思っています。やっぱり業務の中で回り出す、髙溝君が言うように現場の人が使い出して「あ、いいな」と思ったら、どんどんつないで、「さらにもっとつなごう、もっと使おう」と、そういう流れで自然と回り出したということなんです。IoTというのは単にものをつないで終わりではなくて、いかにその先に多くの業務、多くの人とをつなぐかというところが大事なので、そこは量販店で売り切りをしている家電メーカーさんでは作りにくいビジネスモデルだと思います。そういう点でガス会社というのは意外にもIoTに向いていると言うのか、取り組みやすい立ち位置にいるなと感じます。ガス機器とIoTは“親和性”が高く、“お客さまとの繋がりを大切にしたビジネスモデル”なのです。
- 鈴木
-
接点機会でお客さまにお会いした際にサービス内容についてご説明をさせていただき、お客さまが納得してインターネット接続いただいていることがうまくいっている理由ではないかと思います。大阪ガスが24時間ずっと見守ってくれているというのは、お客さまの安心感につながっているのではないかと。
- 青木
-
実際につないでいただいたお客さまにアンケートをとったところ“94%”の方がエネファームを遠隔で見守っていることに対して「安心している」と回答をいただいています。お客さまにとっても安全・安心なサービスになっているのではないかと思っています。
メンテナンスの現場にも、お客さまにも、ともにメリットのあるシステムであり、サービスであるということですね。ではこのIoTを駆使したビジネスモデルを今後どのように展開していくつもりですか?
- 鈴木
-
今はエネファームの話をさせていただいていますが、このシステムをもっといろいろな機器に広げていきたいと思っています。その取り組みの一つとして、2017年10月2日にIoTシステム対応の給湯暖房機エコジョーズの発売を開始しました。
- 髙溝
-
私は出身が北陸ですが、このIoTシステムを大阪ガスのお客さまだけでなく、他の地域のお客さまにも提供して使ってもらいたい、そんな大きな取り組みにつなげられたらいいなと思っています。
- 八木
-
エネファームと一緒に、この仕組みを全国にも広げていきたいという思いは私にもあります。実はすでに他のガス事業者様にも採用いただいています。
- 髙溝
-
エネファームのIoT対応に対するニーズは大阪ガスに限った話ではないはずです。また、エネファームを2030年に全国で530万台普及させるという国のエネルギー政策とも合致する話だと思います。今回私たちが取り組んだ“IoTに対する考え”が全国に広がっていって欲しいと、開発者としては願っています。
- 青木
-
IoTを活用したサービス、スマートフォンアプリの進化というのは今後もあると思っています。今はエネファーム、ガス機器に特化したアプリケーションですが、他社の機器やサービスとの連携など、まだ色々と広がりはあると思っています。また、既存機能についても、さらに利便性も上がった形にしていきたいです。新しい技術を取り入れて、生活の中で使いやすい形になるというところを、今後も継続してやっていけたらいいなと思っています。
- 鈴木
-
お客さまから「もっと便利にならないのか」といった声もいただいていますし、我々もそうしていきたい。もっとサービスを充実させていきたいという思いはあります。我々が持っている床暖房であるとか給湯器。これはもう遠隔操作もできるし、エネルギーの情報も見せられているので、ここをもっと磨くというのもあります。さらに我々が持っているものだけにこだわらず、青木君の言うように他社の製品、サービスと組み合わせて新しいサービスが提供できないか、そんなところも考えていきたいです。もともとそういう思いを持って開発したシステムなので。他社と連携するということができるようにサーバを開発していますし、今は色々と提供可能なサービスを考えているところです。技術的な下地はあるので、あとは具体的なアイデアをいかに創り出していくか、これから目指すのはそういうところなのかなと考えています。
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