Future Report
酒米を評価する新手法を確立!
掲載日:2018.10.31
酒米の分析サービスで
日本酒造りの現場に貢献!
日本が世界に誇る伝統産業の一つ、酒造り。
酒造りの現場は、さまざまな技術革新によって近代化が進みつつある。
そこにまた一つ、かつてない新技術が加わった。
大阪ガスが独自開発し、伏見酒造組合とタッグを組んで検証した技術で、
どうやら酒造りに用いられるお米を評価する新手法らしい。
いったいどんな技術なのか?
主幹組織である大阪ガス「フード サイエンス ラボラトリー」を訪ねました。
食の研究を科学的に追求する“食Lab.”。
「フード サイエンス ラボラトリー」が設置されている、大阪ガスのエネルギー技術研究所を訪ねると、さっそくラボのメンバーの冨田さんが中に招き入れてくれました。
「この研究所の中にフード サイエンス ラボラトリーがあるんですよね?」
「そうです。フード サイエンス ラボラトリーという名前は長いので、どうぞ通称の“食Lab(しょくラボ).”と呼んでください」
「わかりました。で、その食Lab.ってそもそも何をしているところなんです?」
「大阪ガスは古くから、家庭用、業務用の調理機器を開発してきた関係で、“食”に関する独自の知見を蓄積してきたのですが、そうした取り組みを科学的に手がける組織として生まれたのが食Lab.です。具体的には、食品の調理・加工プロセスに見られるキーとなる現象を、伝熱や構造分析といった科学視点で解明することにより、食品の特性を最大化するための研究を行っています」
なるほど。酒米に関する研究もそのうちの一つということ? 大阪ガスと酒米。どうもイメージが結びつかないこの不思議な関係を解き明かすため、冨田さんに詳しく話を伺ってみました。
フード サイエンス ラボラトリー研究員 冨田 晴雄
お米の吸水状態をリアルタイムで計測。
今回、開発した酒米評価の新手法って一体何なんですか?
-
酒造りには、お酒造りに適したお米である「酒造好適米」すなわち「酒米(さかまい)」を用いますが、今回開発した技術は、そのうち特に大吟醸酒造りに用いられる高精米歩合の酒米を対象にしたものです。日本酒は、米の表面近くに存在するタンパク質などの雑味のもととなる成分を取り除いたお米を用いて製造し、その取り除く度合い(精米歩合)が半分以上と高いものを大吟醸酒と言います。その酒米を水に浸漬(しんせき)させた際に、米がどれくらい水を吸っているかを、リアルタイムで可視化するとともに定量化する技術となります
ええっと・・・。つまり?
-
(笑)。わかりにくいですよね。百聞は一見にしかず。まずはラボに行ってみましょうか。
ぜひぜひ。・・・ところで、先ほどの「浸漬」というのは?
-
酒造りでは、まず精米をしたお米を洗い、その後一定時間、水に浸けて吸水させる「浸漬」を行います。一般家庭でも、お米を炊く前に水に浸けておきますが、あれと同じです。ただ酒造りの場合、この吸水工程は非常に繊細で、酒米の種類や精米歩合によって秒単位で調整されています。それくらい重要な工程なのです。・・・さあ、着きました。こちらが食Lab.です。調理室、化学分析室、物性計測室の3つの実験室に分かれています。もう一人、メンバーをご紹介します。一緒に開発を担当している中山です。
中山さん、こんにちは。さっそくですが、この部屋にはいろんな装置が並んでいますね。
-
はい。ちょうどその奥にあるのが、お米の吸水状態を測定する装置「RAIS3(ライス3、Rice water Absorption Inspection System 3」です。
「3」? ということは、1号機や2号機があったのですか?
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はい。この装置は自分たちで作っているのですが、1代目の装置は段ボールなどで作った手作り感満載のものでした(笑)。その後、2代目を経て、金属加工のプロに仕上げてもらったこちらが3代目となります。
少しずつ進化をしていったわけですね。で、この装置はどうやって使うのですか?
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まず、透明の容器の中に米を並べ、そこに水を入れます。
「浸漬」ということですね?
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そうです。容器の上部にはカメラが設置してあり、10秒ごとにシャッターを切って画像を記録します。画像を見ると、吸水前は白かったお米が、吸水していくにつれ黒く変化していきます。また、大きさも少しずつ膨張して大きくなっていきます。この変化をまとめた動画もあるので、ご覧ください。
※下図のお米の画像をクリックすると、動画が再生できます。
ほう。・・・あ、途中でお米が割れていますね。
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私たちは「腹割れ」と呼んでいますが、吸水しすぎるとこうして割れてしまうお米も出てきます。こうした外観の変化を画像で確認できるよう可視化した点が、まず「RAIS3」の1つめの特徴です。加えて、こうした変化をとらえた画像を認識して定量化できる点が、2つめの特徴です。こちらのディスプレイに表示されているグラフを見ていただければわかるのですが、横軸が時間、縦軸が吸水状態変化率になっています。ある一定時間を超えると飽和状態を迎えて、ほぼ変化がなくなります。
可視化、定量化で業界から高い評価。
具体的には、どのような技術が用いられているのですか?
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まずは構造評価技術です。これはかねてより大阪ガスが開発を進めていた、半導体などに用いる材料の構造評価をする中で蓄積した技術を応用しています。そして、画像の認識技術。これはAIを用いているのですが、私たちはこれまで数多くの品種の、さまざまな精米歩合について画像を解析することにより、変化率と吸水率の関係性を示したデータベースを構築しています。このデータベースと照らし合わせることで、「これくらいの変化が見られるなら、これくらいの吸水である」と評価するわけです。
酒造りの現場では、従来そこはどのように?
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酒蔵に蓄積された知見をもとに、杜氏(とうじ)さんの腕(経験と勘)で仕上げています。酒米の出来は毎年違うので、米の状態を見ながら適切な浸漬時間を導き出しているそうなのですが、それだとベストな浸漬時間を見つけるまでにロスを生むリスクもあり、また、技術の伝承も難しくなります。今回開発した新手法を用いると、あらかじめその年の米の吸水データが数値で確認できるので、杜氏さんがより精緻な浸漬を行うことが可能になるのではと考えられています。実際、検証に携わっていただいた杜氏さんにも、そこは評価いただいています。
そういえばこの新手法は、伏見酒造組合さんとの共同で検証されたのでしたね?
-
そうです。もともと、この評価技術は飯米用に大阪ガスが開発したもので、その技術を酒米用に応用できないかということで、伏見酒造組合さんと技術検証を進めたという次第です。実は吸水に関する評価には業界で多く用いられている従来手法がありますが、今回の新手法は従来手法とも相関が認められ、現場の感覚とも一致していると確認できています。加えて、従来手法にはなかった、連続的な米粒の変化を詳細に可視化・定量化が可能になったという点で高く評価され、業界誌等のメディアでも多く報道いただきました。
食Lab.の評価技術サービスを多分野へ。
食の専門家ではないガス会社が、なぜこうした技術を確立できたのでしょうか?
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酒造メーカーさんを含めた食品メーカーさんと比べると、研究対象とアプローチの違いがあります。食品メーカーさんにとって大切なのは、最終的な製品の部分。私たちが研究対象としているのは、「プロセス」です。そこに、大阪ガスが従来蓄積してきた、構造評価技術や画像の認識技術、さらにはAIといった、違うジャンルの最新技術を持ち込んだことによって確立できたといえます。
2人も、食の専門家ではない?
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ですね。私はもともと電子材料の研究が専門で、ナノレベルの材料の評価技術を研究していました。お米も実を言うと同じくナノ構造を持っていることから、その最新評価技術を用いて炊飯に関する研究を進めてきました。
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私はそこに、水の専門家として合流しました。学生時代は水道水の研究、入社後は廃熱を用いた水処理に係る水と熱の研究をしてきた経験があり、それを今回の評価技術の開発に活かしています。
なるほど。で、今後はどのような取り組みを?
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まずは、この技術を多くの人に使っていただくために、全国に広げる活動をしていきたいと思います。そのためには、先ほど述べたプレスなどのメディアPRに加えて、専門家の集まる研究会や学会、海外論文誌などで発表し、議論することで信頼性の高い技術だと受け取っていただけるように活動をしていきたいと思います。
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技術的な観点からは、さらに精度を上げるための3次元評価技術の確立を目指したいと思います。
3次元?
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横方向の面積に加え、高さ方向の厚みを計測して評価する技術です。「RAIS3」では、横方向の面積を計測してその変化を観察していました。飯米は平べったいのでそれでいいのですが、酒米はまん丸に近い形で厚み方向の変化が大きいため、それも計測しなければ本当の意味での評価はできません。そこで新たに開発したのが、「RAIS D」という装置です。「RAIS D」は、円筒形の入れものにお米と水を入れ、お米の体積が増す様子をレーザーによって計測する装置です。仕組みはシンプルですが、精密に計測するために独自の治具を開発するなど、細かいノウハウが凝縮されています。今後は、評価対象によってこの「RAIS D」も使用しながら、より精度の高い評価を行う予定です。
こうした装置を食品メーカー向けに販売するわけではないですよね?
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そうではなく、あくまでも評価サービスを提供するビジネスモデルです。今回ご紹介した酒米の評価技術だけでなく、食Lab.ではさまざまな食品の評価技術(米、野菜、肉、・・・)を研究開発しています。それらを、大阪ガスの持つ幅広いソリューション提案の一つとしてご提供することによって、お客さま先での品質向上や品質管理に役立てていただければと考えています。そしてさらに、Daigas グループで保有するICT技術と融合することにより、新サービスの創出につなげることができるといいですね。
わかりました。今日はありがとうございました。
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