取材・執筆:Daigas STUDIO 編集部
大阪ガス(株)資源トレーディング部
張 継元(Jiyuan Zhang)
Daigasグループが調達する天然ガスは、ご家庭のエネルギー源はもちろんのこと、大型の発電所や各種工場や事務所などにも主たるエネルギー源の一つとして使用されています。近年ではCO₂の排出が少ないという特徴により世界的に天然ガスの需要が増しています。日本は埋蔵量が少ないため、外国で採掘したのちマイナス162度に冷やされ、液体状にした液化天然ガス(LNG=Liquefied Natural Gas)として輸入しています。
人々の暮らしと経済活動になくてはならない天然ガスを、安定的に低コストで調達・供給することは、Daigasグループの重要な使命です。そのために欠かせない「LNGの安定調達」という大切な仕事に日々、最前線で取り組む社員がいます。LNGの調達・販売や輸送の業務を通じた、未来を見据えた取り組みとはどのようなものなのか――。大阪ガス(株)資源トレーディング部の張 継元さんにチャレンジを聞きました。
CHAPTER
01
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人々の暮らしを支える、
大きなビジネスに
取り組む
「私が生まれ育った中国の東北部は、冬場には気温がマイナス20度以下になることもあるため、暮らしていくには暖房が欠かせません。子どもの頃は、ストーブの燃料として石炭を使っていたので、冬になると石炭のすすで日常的に街じゅうの空気が汚れていました」
そのように話す、張さんは今、石炭よりもずっと環境負荷の少ないエネルギーであるLNGの販売業務に携わっています。
「冬場に冷たい水で顔を洗うことなく、温かいお湯がいつでも使える。そんな暮らしの基本を支えるエネルギーの仕事に従事できていることに、大きなやりがいを感じています」
張さんは高校までを母国・中国で過ごした後、日本の大学に進学。大学で経営学を学ぶうちに、「将来は、人々の暮らしを支えられるような大きな仕事に取り組みたい」と思ったことから、インフラに関わる企業を中心に就職活動を行いました。なかでも大阪ガスは、「日本のエネルギーを支える企業の一つであり、グローバルなビジネスを展開していたこと、そして何より社員の“熱さ”が魅力でした」と振り返ります。
入社7年目になった現在、張さんは就活時の目標どおり、Daigasグループ事業の中核であるLNGを取り扱う、世界全体を視野に入れたビジネスに取り組んでいます。
天然ガスは、メタンを主成分とする無色透明なガスで、東南アジア・オーストラリア・中東・ロシア・アフリカ・アラスカ・中南米など、世界中に広く分布。しかし日本は埋蔵量が少ないため、そのほとんどを外国から船で運んでいます。天然ガスは、地中深くに気体として存在していますが、気体のままでは体積が大きく運搬に適さないため、採掘後に冷却して液化し、体積を約600分の1にしてからタンカーで輸送します。
日本に運ばれたLNGはタンクに貯蔵後、再び気化されて都市ガスとして各家庭に供給されるほか、火力発電所や工業用・産業用のエネルギーとしても使われます。2020年時点の日本全体の電源構成では、全発電量の35.4%がLNGによって賄われており、最大のエネルギー源となっています。(出所:電力調査統計などから環境エネルギー政策研究所が算出した数値)
「現在、私が所属するチームの主なミッションは、海外から調達してきたLNGを、自社利用のみならず、国内のガス会社や電力会社などのエネルギー会社や、海外のエネルギー会社に販売することです。これらのお客さまへのLNG販売に係る契約の管理が、私の主な仕事です」
お客さまへのLNGの販売では、あらゆる事態に備えて、Daigasグループと取引先企業との間で、何百ページにも及ぶ契約書を取り交わします。それでも尚、荒天によるLNG船の遅延や天然ガス生産地の生産不調など、契約書に記載しきれない事象については、その都度の状況に応じた対応が必要となることは珍しくありません。このような際には、お客さまだけでなく調達先とも協議し、安定供給に努めます。
「取引先との契約は、10〜20年の長期にわたるものも珍しくありません。その間には、当初の担当者が入れ替わることも当然あります。契約書に書かれている文言を正確に解釈しながら、業務を履行していくことが大切になります」
中国語、英語、日本語の語学力を生かしながら、それらの契約の最前線で日々、パートナー企業との交渉の舞台に立つ張さん。
「仕事では3カ国語を使っていますが、言葉はあくまでツールに過ぎません。それよりも自分の仕事に活かされていることは、学生時代にアメリカに留学した経験や、就職してからもいろんな国の人々と交流するなかで、自分と異なるバックグラウンドの人との価値観を分かち合い、良い人間関係を構築できるようになったこと」と、張さんは笑顔を見せます。
現在は国際的な業務を担う張さんですが、この業務に就いたのは、まだ3年前のこと。入社して最初に配属となったのは、各ご家庭に大阪ガスのガス機器を提案・販売する営業部署でした。「その部署で『ガスてん』という、抽選会などでお客さまに楽しんでいただけるイベントを企画したり、展示会で説明したりするなかで、ガスを日常的に使う各ご家庭のお客さまと触れ合えたことが、今の自分にとって“大きな財産”になっています。お客さまから厳しいご意見を電話でいただいた際、私が中国出身とわかって、『異国で働くのは大変でしょう。がんばってください』と逆に励まされたのも良い思い出の一つです」
「私たちの事業は、一人ひとりのお客さまからガス代・電気代をいただいて成り立っています。そして私たちのガスは、何百万人というお客さまの暮らしを支えています。だからこそ、何があってもガスを調達しなければなりません。家庭用ガス機器提案にはじまるこれまでの仕事を通じて、その責任を肌で理解することができました」
CHAPTER
02
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LNGの安定かつ
安価な調達のために
張さんの言葉通り、日本で暮らす人々の生活をエネルギー面で支える天然ガスは、一日たりとも供給をストップするわけにはいきません。安定かつ安価にLNGを調達し続ける必要があるため、Daigasグループでは、以前から様々な取り組みを行ってきました。
その一つが、調達先の多様化です。Daigasグループでは調達を安定化させるために、天然ガスの産出国であるアメリカ、オーストラリア、パプアニューギニア、マレーシアなど8カ国(2021年9月時点)と長期契約を締結しています。もし産出国の一つで何か予期せぬ事態が起こり、LNGの調達が困難になったとしても、複数の調達先を確保しておけばカバーすることができるからです。
また国内でLNGを取り扱う会社の中でも、Daigasグループが先進的に取り組んできたのが、LNG船の保有です。1993年より保有を開始し、現在では自社保有船を中心とする8隻のLNG輸送船団を自由に活用することによって、輸送コストの大きな削減、柔軟なスケジューリングが可能になりました。また、自社船団の空き期間を他社に貸し出すなど、自社へのLNG輸送のみならず自社船団の有効活用によるビジネスの多角化と拡大を図っています。
LNGの調達先として、年々シェアが向上しているのがアメリカです。張さんは2018年4月から約1年間、テキサス州のヒューストンに駐在します。それは、同地で間もなく操業開始が計画されていた「フリーポートLNGプロジェクト」のスタッフとして、トレーニングを積むためでした。
「フリーポートLNGプロジェクトは、アメリカ国内で採掘された天然ガスをテキサス州フリーポート市に設置された基地で輸出用に液化し、その港から日本や海外に向けて輸出する事業です。私はヒューストンでLNGの『送り出し』の仕事を学んだ後、日本に戻り、現在は『受け入れ』の業務を担当しています。輸出入の両方の立場で実務を担当できたことが、今の仕事を円滑に進める上でとても役立っています」
LNG船がアメリカ・テキサス州からパナマ運河を経由して、日本に到着するまでには平均して片道で約1カ月かかります。またその他の国から日本にやってくるLNG船の受け入れのスケジュール調整も、張さんの所属する資源トレーディング部の業務です。船が運航している間には、大型台風の発生などの天候不順が起こることも珍しくありません。気候の影響や、LNG生産基地のトラブルによって船の到着が遅れたときは、たとえ休日であってもお客さまと密に連絡をとり、調整していきます。
「当社はLNGの日本側受け入れ先として、姫路製造所と大阪の泉北製造所にタンクを所有しています。冬場、急に気温が下がれば、暖房に使われるガスと発電のため、天然ガスの消費量は一気に上がります。資源トレーディング部は国内の需要と他社に販売する量を入念に見極めながら、8隻の船を効率よく運航させつつ、必要十分なLNGを調達することが求められます」
LNG船が積載している「LNGの価値」は、金額にして一隻あたり数十億円にのぼります。それだけの大きなビジネスであるがゆえに、「資源トレーディング部は専門的な知識と、何か突発的なトラブルが発生した際の柔軟な対応力が求められます」と張さんは語ります。
CHAPTER
03
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低・脱炭素社会で高まる、
LNGの重要性
日本のエネルギー消費の約60%は熱の利用であり、特に産業分野の高温域にも対応できる天然ガスは、「低・脱炭素」化に大きく貢献できると考えられています。
さらに近年では、「低・脱炭素」問題について各国が急速に本腰を入れた取り組みを行うようになったことが、天然ガスの需要を世界中で大きく高めました。天然ガスは、地球温暖化の原因となるCO₂の排出量が石炭や石油より少なく(石炭に比べて約57%)、また酸性雨などの原因にもなる窒素酸化物も少ないことから、化石燃料の中では「最も環境負荷の低いエネルギー」と言われています。
「世界中で今、脱炭素社会をどうやって達成するかが注目されていますが、社会の全てをカーボンニュートラルに切り替えることは一足飛びには難しく、LNGは脱炭素への移行期間を支える重要な燃料になると理解しています」と、張さん。
そもそもCO₂排出量の比較的少ないLNGですが、さらに環境負荷を下げるための取り組みとして、世界の企業から注目を集めているのが『カーボンニュートラルLNG』(CNLNG)です。これは、天然ガスの採掘・輸送・製造・燃焼の行程を含むライフサイクル全体で発生するCO₂を、植林などが吸収する活動によって相殺し、実質的にCO₂の排出をゼロとする取り組み。カーボンニュートラルの証明書が付与されたLNGを購入することで、企業にとっては生産活動にともなうCO₂排出の削減に貢献できることから、多くのお客さまの注目を集めています。Daigasグループも現在、カーボンニュートラルLNGの持つ可能性に期待し、調達・販売を開始しています。
海外でのLNGの調達に始まり、国内での製造・輸送から販売までコントロールしているDaigasグループ。そのなかで学生時代に思い描いていたスケールの大きな仕事に取り組んでいくことに張さんは、「大きな充実感とともに、責任の重大さも感じている」と言います。
「私が担当しているLNGの調達、販売の一連の活動は、お客さまにとってみれば『冬の寒い日に温かいお湯が出ること』に直結し、また電力の安定供給や多くの企業の生産活動にも密接につながっています。だからこそ、会社だけではなく、日本社会全体への貢献も視野に入れながら、取り組んでいくことが大切だと感じています。社会の低・脱炭素化の流れのなかで、よりいっそうLNGの重要性が高まっていくことは間違いありません。これからも立ち止まることなく、自分に与えられた『使命』を果たしていくことが、私にとっての終わりなき挑戦です」
責任重大な仕事に全力で取り組む張さんの趣味は「ランニング」。休日や、平日も週に一度はランニング好きの仲間と一緒に走り、フルマラソンやハーフマラソンの大会にも出場しています。「走ることで、以前よりも粘り強さが身につきました」と語る張さん。まだ見ぬゴールに向かってこれからも、世界を舞台にLNGとの伴走を続けていきます。
大阪ガス(株)資源トレーディング部張 継元
2015年度入社。3年間、エネルギーおよびガス機器の販売促進業務に従事した後に、資源・海外事業部に移り、アメリカ・テキサス州のフリーポートプロジェクトの立ち上げ業務を担当。19年度から資源トレーディング部でLNGの調達および販売業務に携わる。Daigasグループの企業CM「低・脱炭素」篇に出演している https://www.youtube.com/watch?v=3AiHs2E7TLI