未来への挑戦者たち

23.03.31

挑み続けて30年 ――
DXの力で限界を超える LNG(液化天然ガス)サプライチェーンの
最適化を目指して…
データ分析専門チーム・
ビジネスアナリシスセンターの挑戦

取材・執筆:Daigas STUDIO 編集部

大阪ガス(株)DX企画部 ビジネスアナリシスセンター

所長 岡村 智仁(中央)
手塚 孔一郎(右) 口井 雅之(左)

企業がビッグデータやAIをはじめとするデジタル技術を用いて、業務プロセスの改革や新たなビジネスモデルを創出するDX(デジタルトランスフォーメーション)。その概念がまだ世に出ていなかった1990年代、すでに大阪ガスはデータ分析がビジネスに変革をもたらす可能性を探っていた。
その先進的な試みは、時代の移り変わりとともに幾多もの紆余曲折を経て進化し続け、悲願ともいえる難題解決ツールの開発へとつながっていく。
これは、大阪ガスが誇るデータサイエンティストたちが、データをひもとき、ビジネスと向き合った、挑戦のドラマである。

CHAPTER

01

データ分析をビジネスに活かす
「BACマインド」の誕生

Daigasグループにおいてデータ分析・活用を専門とする「ビジネスアナリシスセンター(以下BAC)」の所長、岡村 智仁は2001年に大阪ガスに入社。BACの前身に当たるデータ分析専門チームに所属していた。しかし当時はまだデータ分析が浸透していなかった時代。「営業部門や、経営部門など、さまざまな事業部に提案していたが、『現場業務を知らない君たちに何が分かるの?』と、受け入れてもらいにくかった。自分たちもまだデータ分析で会社に貢献する、価値を出すとはどういうことかを気付いていない部分があったのかもしれません」。

そして2006年、データ分析専門チームは「情報通信部」にチームごと異動となり、研究所から本社へ移転。これをきっかけに環境が一変し、転機が訪れた。

「研究所では、さまざまな新規開発を目指す研究者が周りにいたこともあり、私自身も新規性を優先しがちでした。しかし本社へ移転後、現場に近い事業部の方々との接点が増えるにつれて、『難しい分析や新しい分析よりも、単純な集計結果の方が現場の方々に必要とされるならその方が大事だ』と考えるようになりました。それは研究者の視点からビジネスの現場の視点に切り替えるという発想の転換でした」。

やがてチームの名称は現在の「ビジネスアナリシスセンター」となり、ビジネスの課題解決事例も増加。ガス機器の修理データの分析による修理部品の予測システムや、自動車走行データの分析による大阪ガスネットワークの緊急車両の配置最適化も手掛けた。

『データ分析は手段であり、ビジネスで付加価値を生むことこそが目的である』 ―― その考え方は、BACマインドとして、次世代へも受け継がれていくことになる。

写真:岡村さん、手塚さん、口井さん

CHAPTER

02

30年来のテーマ
「LNGのタンク繰り計画モデル」への挑戦

大阪ガスの長年にわたる課題「LNGサプライチェーンの最適化」。海外からタンカーで日本へ運ばれてくるLNG(液化天然ガス)は製造所内にある複数のタンクに貯蔵され、熱量を一定にした上で気化させ臭気を付けて都市ガスとして供給される。

LNGは産地によって熱量が異なるため、その熱量の違いを考慮した上で混ぜなければならず、加えてタンクの空き状況や在庫、設備の状況なども日々刻々と変化し、さらに後から運ばれてくるLNGの熱量も考慮しなければならないなど、変数や制約が無数に存在する。それらすべてを計算した上で適切な熱量管理と在庫管理の計画を立て、タンクのやり繰りをすることを「タンク繰り」と呼ぶが、これは非常に難しく時間がかかる。タンク繰りは、タンカーの配船計画や、LNGによる火力発電計画にも影響するため、このタンク繰り計画がもっと効率的に短時間でできれば、その他の計画も迅速に進められることになり、「LNGサプライチェーンの最適化」のブレイクスルーとなる。

大阪ガスは30年も前からこの難解なテーマに取り組み、2008年からはBACが「タンク繰り計画モデル」の開発に着手し、実用化を目指すこととなった。タンク繰り熟練担当者の経験と勘による「職人技」を、数学的に明確にルール化、定式化し、また、アルゴリズムとして表現するという試みである。

図:LNGサプライチェーンの最適化。在庫・熱量が管理範囲内に収まり、かつ、操業負荷が最小になるように「LNG船の受入・LNG在庫管理・ガスの送出」それぞれの計画を導出

CHAPTER

03

数学的手法と職人的ノウハウを融合し、
未知なる高みへ

タンク繰り計画モデルの策定を任されたのは、手塚 孔一郎と口井 雅之。二人がこの案件に加わった2020年以前は、真正面から数学的に定式化するという手法で挑んでいた。しかし、岡村いわく「数理工学の専門家でさえ『こんな難しい問題は初めて見た』と言っていた」ほどの壁は、あまりにも高かった。そこで二人はアプローチを変えた。

「数学的なアプローチだけでは解けないことを、担当者はタンク繰りの実務経験に基づいて解いている。そこで、担当者のノウハウに注目しました。そして、その方々がどのようにタンク繰りを行っているのか、細部に至るまで詳しく話を聞きました。しかし担当者のノウハウというのは経験や勘、直感に基づいているものも多く、『こういうタンクにこの熱量のLNGがこれだけ入っていたらこうします』という答えの連続でした。それらをルール化しようとしてもほとんどが個別具体的なノウハウなので汎用性のあるルールがつくれませんでした。そこでさらに『なぜそうするのか』という意図や考え方を深掘りし、本質を理解する努力をしました。すると、担当者が判断基準としてどこを見ているのか、何をポイントにしているのかが見えてきました」(手塚)。

担当者の目線で理解するべく徹底的にヒアリングを繰り返した手塚と口井は、すでに自分たちでタンク繰りの意図を理解できるほどのレベルに達していた。そこで得た意図や考え方を数学的に表現して分析手法に取り入れることで、二人はタンク繰り計画モデルの精度を高め、現場で実務運用してもらいながら修正を繰り返し、ついに「使える」と判断されたのが2022年度のことである。

「学生時代、データ分析の仕事は、現場からの依頼を受身的にやることだと思っていました。でも、それではデータ分析の価値は見いだせません。BACで教えられた、ビジネスという目的を意識していたからこそ、現場とのコミュニケーションにも力を入れられたし、目的に合った最適な手法を選択できたと思います」(口井)。

「コミュニケーションの際に使う言葉も、分析の言葉ではなくビジネスの現場の言葉で語るよう心がけていました。だからこそ相手も心を開いてくれたんだと思います」(手塚)。

まさに、BACマインドを受け継ぐ二人のこれらの言葉が、計画モデルの実用化に成功した理由を物語っている。

数学的手法と職人的ノウハウを融合し、未知なる高みへ

CHAPTER

04

データ分析の力で、
ビジネスにもっと付加価値を

タンク繰り計画モデルの実用化はまだ始まったばかりだが、今後の可能性は大いに期待されている。

「作業時間が短縮され、かつ複数の計画を一度に作成することができ、多角的な視点で計画を評価できていると現場から聞きました。さらにタンカーの配船計画やLNGでの火力発電計画に及ぼす効果も期待されています」(口井)。

「LNGから生成する天然ガスや都市ガスを安定的かつ効率的にお客さまや発電所に届けるために、最も困難なタンク繰り計画策定の属人性を低減して効率化できたことで、会社としてビジネス全体を変えるインパクトを生み出せると思います」(手塚)。

「LNGの調達に関して、社会状況や社内事情の変化など、これからも多くのシナリオが想定されます。そのような状況下でその都度、人が対応するには限界がありますが、計画モデルでさまざまなシナリオに対応できるということも、このモデルを活用する上での強みと考えています。このようにデータ分析に基づく意思決定を社内に浸透させることが、私たちBACが最も勝ち取りたい付加価値であり、これからも追い求めていきます」(岡村)。

現在、実用化されているタンク繰り計画モデルの価値をさらに高めるべく、タンク設備の変更など、さまざまな状況変化に対応できる計画モデルの改良を目指して、挑戦は続けられている。「データ分析でビジネスに付加価値をもたらす」というBACマインドは、これからも脈々と受け継がれていくことだろう。

写真:岡村さん、手塚さん、口井さん

私にとっての挑戦とは

データ分析の力でビジネスの付加価値を最大限に引き出すこと(岡村/中央)
理想(データ分析)と現実(ビジネス)の架け橋となるべく自分の可能性を広げること(手塚/左)
データ分析で不可能を可能にすること(口井/右)

岡村 智仁

大阪ガス(株)DX企画部 ビジネスアナリシスセンター 所長

2001年入社以来、エネルギー消費データ分析をはじめとしたさまざまなデータ分析業務を経験。2018年4月よりビジネスアナリシスセンター所長に就任。データ分析/活用にて社内の DX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引するミッションに従事。

手塚 孔一郎

大阪ガス(株)DX企画部 ビジネスアナリシスセンター

2015年入社以来、需要予測やマーケティング分析、オペレーション最適化、新サービス開発など幅広い分析を経験。現在は社内の意思決定に関わるデータ分析に従事。

口井 雅之

大阪ガス(株)DX企画部 ビジネスアナリシスセンター

2020年入社以来、タンク繰り計画モデル開発に従事。ビジネス課題の整理/分析の設計から、最適化ロジックの開発、システム構築まで担当している。

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