世界の新潮流、再生可能エネルギーの「追加性」 世界の新潮流、再生可能エネルギーの「追加性」

22.01.11

世界の新潮流、
再生可能エネルギーの「追加性」

取材・執筆:Daigas STUDIO 編集部

大阪ガス(株)電力事業推進部

山下 真

いま、急ピッチで再生可能エネルギー(再エネ)の導入を進める海外の企業の間で、新しい潮流となっている考え方が再エネの「追加性(additionality)」です。追加性とは、「その再エネ電力を購入することが、新たな再エネ電源の普及拡大に寄与すること」を意味します。大阪ガスの山下 真さんは、自らの仕事を「再エネ普及の伝道師」と語り、追加性のある再エネを日本に定着させる取り組みに奮闘しています。

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再エネの新キーワード
「追加性」

再エネの新キーワード「追加性」 再エネの新キーワード「追加性」

最近、新聞紙面などの再エネに関する記事で「追加性」という言葉を目にする機会が増えてきました。日本ではまだようやく知られ始めた段階ですが、海外では「追加性」の重要性が広く認知されており、今後、日本でも外資系企業を中心に普及していくと考えられています。

大阪ガスの電力事業推進部で、追加性のある再エネの普及促進に取り組んでいるのが、山下さんです。新たな再エネ電源を開発し、そこで発電された電力を販売して、その収益から新たな再エネの電源開発を促す。山下さんはそのバリューチェーンの構築と拡大を進めています。
「2019年に私がこの部署に着任したときは、現在のように脱炭素やカーボンニュートラルを世の中全体で真剣に進めていくような動きは、ほぼありませんでした。そのときには全く想像できないほど、日本のエネルギー情勢は変化しています。追加性という言葉も、昨年までは全く話題になっていませんでしたが、これから大きく注目されることになると思います」

追加性とは?再エネ電気のご利用が、新たな再エネ電源の拡大に寄与する性質

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再生可能エネルギーにも「松竹梅」がある 再生可能エネルギーにも「松竹梅」がある

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再生可能エネルギーにも
「松竹梅」がある

山下さんによれば、再エネのことを正しく理解するには、まず、再エネが持っている2つの「価値」について知る必要があると言います。まず一つ目が、機械を動かしたり照明をつけたりするのに使われる「電気エネルギー」としての電気価値。そして二つ目が、化石燃料を使わないため「発電に伴ってCO2を排出しない」(環境負荷を与えない)という環境価値(非化石価値)です。
現在の日本では、非化石電源で発電された電気の「非化石価値」のみを切り離し、証書にしたものが「非化石証書」として売買されています。火力電源等で生み出された電力を使用しても、同時に非化石証書を購入することで、「排出係数」がゼロになり、電力を使用するお客さまは再エネを導入したと訴求することが認められます。
「再エネには、分かりやすく言うと、松竹梅の3つのランクがあります。梅は、実質的には火力などのCO2を排出する電源で発電を行っています。それでも非化石証書の購入によって『非化石価値』を手に入れたとみなされ、環境負荷をプラスマイナスゼロにしていることから、『実質再エネ』と呼ばれています。竹は、再エネ電源で発電を行っており非化石証書もついているものの、再エネ電源自体は従来から存在する場合などです。竹と梅が『実質的に新しい再エネの普及にはつながっていないエネルギー』だとすれば、最高位の『松ランク』であるのが、『追加性あり』の再エネなのです。お客さまは『松ランク』の再エネを購入されることにより、新たな電源への投資を行ったと見なされ、それが『追加性』として評価されます」

松は電源が再エネで非化石証書が新たな再エネ由来の組み合わせで、「再エネ」追加性ありとなり評価が高い。竹は電源が再エネで非化石証書が再エネ由来の組み合わせで、「再エネ」追加性なしとなり評価が中程。梅は電源が火力電源等で非化石証書が再エネ由来の組み合わせで、「実質再エネ」追加性なしとなり評価が低い。

既に海外では追加性の重要性が広く認知されており、追加性が付与された再エネを導入する企業が増え始めています。
「欧米の世界的なIT企業の中には、2030年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成するため、取引先に対して再エネ電力を使用するよう求めている会社もあります。また、先進的な企業は既に追加性のある電力の導入を始めています。脱炭素社会の実現に自分たちが貢献しているという点に価値を感じているのです」
Daigasグループは2021年4月から、追加性を持った再エネ電力「D-Green Premium」の販売を開始しました。2021年6月から島津製作所さまへ、同年10月からヤンマーエネルギーシステムさまが経営するゴルフ場「琵琶湖カントリー倶楽部」さまへ「D-Green Premium」の供給を開始しています。

D-Green Premiumの供給例 発電事業者から多種・多数の再エネ電源情報を集約し、地産情報を適切に付与してお客様にお届け

「また、島津製作所さま、琵琶湖カントリー倶楽部さまへ供給している再エネ電力の非化石証書には、地産情報(供給する再エネ電力に付随する非化石証書が、どの都道府県の再エネ電源由来か等を示す情報)が付いています。最近、再エネの『地産地消』を希望される企業さまが増えています。地元の再エネを地元で利用する、いわば『ご当地再エネ』です。その意義は、地元で経済を循環させることであり、地域活性化のために再エネの『由来』をしっかり把握したいとお考えなのです。共通しているのは、追加性や地産地消により社会や地域に貢献したいというお客さまの想いです」
そう語る山下さんは、自らの仕事において「相手の反応を見ながら、分かりやすく説明すること」を常に重視しています。
「自分たちが売っている再エネという商材は、目にも見えなければ、匂いも味もありません。しかも様々な種類があり、制度もとても複雑で、お客さまの中にも再エネに詳しい人もいれば、ほとんど知識のない方もいらっしゃいます。そういう方々に、きちんと追加性のある再エネや地産地消の再エネの価値をご理解いただき、普及拡大していくことが私に課せられたミッションなのです」

Daigasグループ再エネの地産地消の分布図。再エネ電源を設置・調達済みが38都道府県、再エネ電源を設置・調達予定が6県、再エネ電源の設置・調達なしが3県。合計36万KW、約94%の都道府県をカバー(44都道府県)

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「再エネ普及の伝道師」
として

「再エネ普及の伝道師」として 「再エネ普及の伝道師」として

山下さんが大阪ガスに入社したのは2006年のこと。学生のときは原子核工学を専攻し、医療用の放射線検出器に関する研究をしていました。その研究を通じてエネルギー分野に関心を抱くようになり、「電力会社の中の電気の専門家よりも、ガス会社の中で『電気屋』として働くほうが面白い」と考え、家庭用コージェネレーションや発電事業などの新分野に乗り出そうとしていた大阪ガスに就職します。入社してから配属されたエンジニアリング部・商品技術開発部では、暮らしを通じてCO2の排出ゼロを目指す「スマートエネルギーハウス」の実証実験に参加しました。

「いわゆる『3電池』と呼ばれる、燃料電池・太陽電池・蓄電池(電気自動車を使用)を家庭のエネルギー源として最適化することで、CO2の排出量を通年でゼロにする実験です。どんな家にすればいいのかコンセプトを考えるところから参加し、自ら4年間、奈良に建てられたスマートエネルギーハウスで家族とともに暮らしました」

写真:山下 真 写真:山下 真

そのように、入社間もないときから「時代を先取りするプロジェクト」に身を置いてきた山下さん。好きな言葉は「人の行く裏に道あり花の山」だと言います。
「普通に人が考えることと同じことを仕事でやっても、面白くありません。誰もまだやったことがないことを始めると、上手くいかないことも多いし苦労もしますが、その分ワクワクでき、成功したときには大きな達成感が得られます」
現在進めている追加性を持つ再エネのバリューチェーン構築の事業も、「初めは何もないところからアイデアのみで始まりました。それが、徐々に社会のうねりとなり、追い風となりつつあります。私の仕事は、追加性の重要性を伝えることにより再エネを普及させる伝道師と言えるのかもしれません」と振り返ります。

目に見えず味も匂いもない再エネ電力の「追加性」という価値を伝え、再エネバリューチェーンの拡大を通じて顧客貢献、社会貢献、自社利益の3つを達成する
目に見えず味も匂いもない再エネ電力の「追加性」という価値を伝え、再エネバリューチェーンの拡大を通じて顧客貢献、社会貢献、自社利益の3つを達成する
写真:山下 真

「再エネの導入があらゆる企業にとって焦眉の課題となった今、社内外を問わず、再エネの良さや仕組みを問いてまわることでその良さを理解してもらうことが、『再エネ普及の伝道師』としての自分の使命です」
「粘り強く、想いで仕事を進めるタイプ」という山下さん。再エネの普及にかける強い想いをもとに、論理的かつフレンドリーな話し方で周囲の人たちを巻き込みながら、これからも「再エネの伝道」を続けていきます。

大阪ガス(株)電力事業推進部山下 真

工学研究科原子核工学専攻。2006年に入社し、エンジニアリング部・商品技術開発部でスマートハウス実証試験に従事。エネルギー・ICT開発部で家庭用電力の小売事業の立ち上げに従事した後、現在の電力事業推進部で再エネバリューチェーンの拡大を推進する。

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