24.10.31
大阪ガスが気象予測?!計算科学で社会課題解決に挑む 発電、鉄道、建設工事…さまざまな事業で活用される大阪ガス独自のピンポイント気象予測技術とは
取材・執筆:Daigas STUDIO 編集部
大阪ガス(株) エネルギー技術研究所 計算科学・材料ソリューションチーム
※取材日2024.9.3時点
主任研究員/気象予報士 髙谷怜
大阪ガスと気象予測。一見、意外な組み合わせのように思えるが、実はエネルギー事業と気象予測は密接な関係にあり、今後はさらに幅広い分野での活用も期待されている。大阪ガス独自の「気象予測技術」は、どのように生まれ、社会課題の解決に貢献していくのか。入社以来一貫してその可能性を追求してきた、一人の挑戦者が現状と未来を語った。
CHAPTER
01
開発の原点は、流体シミュレーション技術
気温が低いほどガス販売量が増加するなど、気象の影響を受けやすいエネルギー事業。いずれ気象予測を考慮してエネルギー事業を展開する時代が来るに違いないと考えていた大阪ガスは、2008年に計算科学による気象シミュレーション技術の開発に着手した。
「ここで基盤となったのが、30年以上にもわたり蓄積してきた流体シミュレーション技術です。ガスファンヒーターが部屋全体をどのように暖めていくか、ガス燃焼時の排気はどのように広がっていくか、などの予測に活用してきた技術です」。
そう語るのは、気象予報士の資格を持ち、エネルギー技術研究所で「気象予測技術」の研究に取り組む髙谷怜だ。
さらに研究が重ねられた「気象予測技術」は、2013年に天然ガス発電所での活用を開始。以降も太陽光発電量の予測や、天気からの電力取引市場の先読みに活用するなど、社内のさまざまな事業に役立てられた。
CHAPTER
02
もっとメッシュを細かく、ピンポイントへの挑戦
大阪ガスの「気象予測技術」の強みの一つが、メッシュ(網の目状の計測単位)を気象庁より細かく区切ったことだ。細かくするほど地形の再現も流体解析もより正確にでき、ピンポイントでの予測が可能となる。大阪ガスは当初からそのレベルを目指していた。
「私たちが研究を始めた15年ほど前、気象庁から入手できる予測データは約20km四方メッシュでした。しかしメッシュが大きいと、特にピンポイントの風や気温の情報がなかなか得られない。もっと細かくできないかと果敢に挑戦しました」。
その結果、大阪ガスは2.2km四方のメッシュでの予測を実現。気象庁のおよそ1/10まで解像度を高めたのだ。
「どこの民間気象情報会社も同じように細かく区切れるかというと、それがなかなか難しい。なぜなら、メッシュを半分にするだけでも計算時間が4倍になるほど時間がかかるため、より大きな計算機器が必要になるからです。その点、大阪ガスは流体シミュレーション技術を確立する過程でそれらの機器を豊富に有しており、さらに予測範囲を西日本エリアに限定することで、計算時間という壁を乗り越え、2.2km四方のメッシュを実現できたのです」。
この独自の「気象予測技術」に、現地の気象観測データを学習したAIを組み合わせ、着々と技術を高めてきた大阪ガス。さらに「気象による事業や生活への影響は自社だけではない。社会全体の課題として取り組まなくてはならない」と、2018年には民間気象情報会社と同様の資格「予報業務許可」を大手都市ガス会社・電力会社として初めて取得。ひとつの事業として、社外からのニーズにも対応できる体制を構築していった。
CHAPTER
03
ピンポイントだからこそ実現できる、
さまざまな課題解決
2023年7月、いよいよ事業化が実現する。電気事業者に対して電力需要、発電量を予測するサービスの提供だ。並行してさまざまなビジネスの現場に気象情報を提供できるよう、各事業パートナーと共同で実証実験を続けている。例えばJR西日本との研究では、湖西線沿線の長年の課題である“強風”に関する予測システムを試験導入。24時間先までの風速と風向を予測し、安全性と利便性の両立を目指している。
また大林組とは、建設工事向けのAI気象予測サービスの実証実験を大阪・関西万博が開催される夢洲で続け、安全で効率的な施工管理を支援している。
「コンピューターシミュレーションだけでは、現地の状況と予測に微妙にズレが生じます。私たちは実際に現場で観測しデータをとることで精度を高めています。もちろん高精度ということだけが重要ではなく、使う側にとっていかに使いやすい情報に変換していくか。実はその課題が一番大きいと思います。お客さまが何を欲しているかを推測し、そこにどう技術をマッチさせるかという思考力も要求されます」。
実際に現地に入り、各事業パートナーと共同でコミュニケーションをとりながら実証実験を続けている点は、大阪ガスの何よりの強みといえる。
「事業パートナーさまから『気象情報のおかげで、事前に適切な手を打つことができた』という声をいただくときが一番うれしく、研究の励みになります。さらに大切にしていることは、事業パートナーさまの不安を理解すること。みなさん予測が外れることに不安をお持ちですから『技術を押し付けず、寄り添うこと』は常に心がけています」。
CHAPTER
04
気象予測技術のさらなる可能性を求めて、未来へ
鉄道、農業、建設工事…多様な事業パートナーとの実証実験を進めている「気象予測技術」だが、克服すべき課題も多い。
「台風やゲリラ豪雨の予測は難易度が非常に高く、中には『無理』としか答えようがないケースもあります。だからといってあきらめることなく、予測できる確率が低くても、その中で提供できる有益な情報はないか、どこかのタイミングで情報を出せたら現場で少しは役に立たないか…できる限り粘って探っていきたいです」。
地球規模で危機が叫ばれている気候変動も、今後向き合うべき大きな課題だ。「子供の頃から関心があり、大学でも研究を重ねた“地球温暖化対策”にも貢献できればと思います。例えば気象予測に基づいた電力需要予測によって計画的・効率的に発電でき、エネルギーの安定供給をもたらすなど、私たちの『気象予測技術』は持続可能な社会の実現に必ずつながる。そう信じて可能性を追求していきます」。
「気象予測技術」は、未来への力にも成り得る。髙谷が熱く語る理想への挑戦は、これからも続いていく。
私にとっての挑戦とは
髙谷 怜
2014年入社。エネルギー技術研究所で気象予測シミュレーション研究と、気象データの自社事業への活用を担当。2018年に大阪ガスが予報業務許可事業者の登録を受けた後は、Daigasグループ外への気象予測サービス化にも従事。気象予報士。
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