未来への挑戦者たち

22.07.22

カーボンニュートラル社会へ
向けて
 日本の火力自家発電を
エネルギー転換する

取材・執筆:Daigas STUDIO 編集部

Daigasエナジー(株)広域エネルギー営業部

砂川 貴亮

現在は、2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル社会の実現に向けた移行期にあります。その中で、天然ガスはカーボンニュートラル社会に向けた重要なエネルギーと位置づけられており、産業界においては「石炭・石油から、天然ガスなどのよりCO2の排出量が低いエネルギーへの転換」が求められています。現在、石炭・石油を生産活動に使用している工場に対し、Daigasエナジー(株)で働く砂川 貴亮さんは、ガスコージェネレーションをはじめとする省エネ設備のシステム提案に奔走しています。2020年、東洋紡株式会社岩国事業所さまにおいて、砂川さんが提案した燃料転換プランの導入が決定し、2023年の操業開始に向けた工事が始まりました。
「この仕事に続いて日本の工場のエネルギー転換を進め、環境負荷の低減を実現していきたい」と語る砂川さんに、本プロジェクトの始まりからその先の展望までを聞きました。

CHAPTER

01

石炭火力自家発電所の
エネルギー転換の提案機会をいただく

「現在日本にある石炭火力自家発電所の多くは1960年代〜80年代に建設され、老朽化が進んでいるものが数多くあります。日本政府は2030年、温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減し、2050年にはカーボンニュートラルを実現すると目標に掲げました。それに対応するため、設備の刷新を検討する企業が増えています」

Daigasエナジーで働く砂川さんは、自分たちが取り組む仕事の背景をそのように語ります。
日本政府の「新しい資本主義実現会議」の緊急提言(2021年11月)においても、「鉄鋼、化学、製紙・パルプ、セメントといったエネルギー多消費型産業における日本の石炭火力自家発電の燃料転換を支援する」ことが盛り込まれています。
2021年11月、約50年にわたり稼働してきた山口県岩国市の東洋紡岩国事業所さまは、CO2の排出を大幅に抑える最新の発電所へと生まれ変わる工事をスタートしました。

新しい発電所はLNG(液化天然ガス)と、古紙や廃プラスチックをペレット状にした燃料「RPF(Refuse derived Paper & Plastic densified Fuel)」をエネルギー源とします。また石炭・石油に比べてCO2排出量が大幅に少ない天然ガスを用い、さらに高効率なガスコージェネレーションを導入することで、低炭素化と省エネを実現します。本プロジェクトをDaigasグループの中心となって進めてきたのが、砂川さんです。

写真:砂川さん

「ガスコージェネレーションはガスを燃焼させて『発電』と同時にその『排熱』も有効利用するシステムです。1つの燃料から同時に電気と熱という2つのエネルギーを取り出すため、大きな省エネ効果・低炭素化をもたらします」

大阪ガスに入社した砂川さんは3年間、お客さま先の工場に伺って同社のガスコージェネレーションやボイラをメンテナンスする仕事に従事。その後7年間、繊維企業への営業を担当し、2016年に「広域エネルギー営業部」(現在のDaigasエナジー)に着任しました。着任後、担当となったのが東洋紡岩国事業所さまでした。

岩国事業所さまでは、フィルムや自動車部品の原料となる高分子ポリマー、不織布、水処理膜、人工腎臓用の中空糸膜など、幅広い製品を製造しています。その工場に電気と熱(蒸気)を供給していたのが、1967年以降に設置された設備を使っている石炭火力自家発電所でした。
「私が担当する前にも、東洋紡さまから相談が寄せられたことがあったようですが、そのときは導入にかかるコストがメリットと折り合わず、見送りとなっていました」
再度提案の機会をいただいた今回も、最初、砂川さんに求められたのは発電所の老朽化した予備ボイラのみの更新の提案でした。しかし、2018年になってから、世界の環境意識の高まりに合わせ、東洋紡さまから「発電所のすべての設備を最新のシステムに刷新したい」という希望が寄せられたのです。

CHAPTER

02

「脱石炭」を可能にする
新システム提案がお客さまに評価

砂川さんは東洋紡さまに毎週のように通い、ヒアリングと打ち合わせを重ねます。お客さまにご協力いただき、ともに最適なシステムを模索する日々が続きました。そうしておよそ半年後の2019年6月に、砂川さんは東洋紡岩国事業所さまと設備構成を練り、全設備を刷新する提案をつくり上げました。
「従来の石炭火力自家発電所では、設備の点検時に工場の操業を止めなくて済むよう、メイン設備と同等の電力・熱供給能力のある予備設備を持たれていました。お客さまにとって、大きな設備を2つ持つことは、点検や補修に大きな手間がかかることを意味します。その設備コストを低減しつつ、点検時にも工場をストップさせずに済むよう、私たちはより小型で常時稼働する複数のガスタービンとRPFボイラの組み合わせによる電力・熱供給システムを提案しました」
ガスタービンは、天然ガスを燃料に電気と蒸気を生み出し、RPFボイラではRPFを燃やして蒸気を生みます。蒸気は工場の熱プロセスで使用されます。複数の電力・蒸気供給源を持つことにより、工場の安定稼働が可能となりました。

「より小型で常時稼働する複数の設備を持つことで、一方の設備にトラブルがあった際も、工場の操業には支障が出ません。従来のような大きな予備設備が必要なく、老朽化した予備機の大規模な更新をせずに済むのがメリットと受け取っていただけました。またガスタービンに供給される天然ガスは、気化する前はマイナス162度の低温です。吸気温度が低いほどガスタービンの効率が上がるので、その冷熱をガスタービンに供給する吸気温度を下げるのに有効活用することで、発電効率の向上を図りました」と砂川さんは振り返ります。

(イメージ図)
東洋紡さま ご採用システム 天然ガス→ガスタービン→電気、RPF→RPFボイラ→蒸気 蒸気配給の二重化

この新しいシステムの導入で、東洋紡岩国事業所さまのエネルギー使用量は、年間マイナス10%が実現でき、CO2排出量は年間41%、8万トンも削減できる見込みです。全社の排出量においても7%のCO2削減効果が期待されています。

エネルギー使用量:削減率10%、CO2排出率:削減率41%、東洋紡さま全社におけるCO2排出削減貢献7%

砂川さんはシステム提案前に岩国事業所さまに技術担当と週に1度のペースで通い、お客さまと一緒に時間をかけ、さまざまな稼働パターンを検証しながら、必要十分なシステムをつくり上げていきました。
そうして臨んだ東洋紡さまへのプレゼンテーションでは「脱石炭を実現するシステムとしては、東洋紡岩国にとってベスト」との言葉をいただくことができました。
砂川さんのプレゼン後に、東洋紡さまが本システム導入にも大きく影響する環境目標(2030年までにCO2の30%削減、脱石炭など ※2022年5月に、削減目標を46%に引き上げ)を公表されたと知り、「入社以来、担当した最大のプロジェクトが良い形に着地でき、本当にうれしく感じました」と語ります。

写真:東洋紡さま工場風景

CHAPTER

03

工場のエネルギー転換を
広げていく

岩国事業所さまの設備稼働は2023年10月を予定。現在進行中の工事はDaigasエナジーの複数の技術担当が常駐管理し、営業である砂川さんは次の提案に軸足を移しています。
「今、東洋紡さまは他の工場でも石炭火力発電所の燃料転換を検討中で、そのプランを練っておられるところです。またDaigasエナジーでは他の大手化学メーカー・製紙メーカーの発電所でも燃料転換プロジェクトを進めています。岩国事業所さまのような事例を広げていくことが私の大きな目標です」

写真:砂川さん

私にとっての挑戦とは

創意工夫でお客さまの課題を解決し
低炭素社会の実現に貢献すること

「本プロジェクトで培った知見を活かし、お客さまの課題を解決する提案を続けていきたいと思います」と前を見つめる砂川さんは、大阪の阪南市に生まれ育ちました。子どもの頃から、毎年10月、二輪の山車「やぐら」を曳く地元の祭りに参加し、さまざまな立場、年齢の人たちと話し合いを積み重ねながら、より良い祭りの実現に努力してきました。
祭りで培った、多くの人の思いを一つにまとめ、形にする力を武器に、砂川さんは次の大きな仕事へ向かっていきます。

Daigasエナジー(株) 広域エネルギー営業部

砂川 貴亮

2006年入社。コージェネレーションメンテナンスを3年経験。その後、南部産業エネルギー営業部に異動し、7年間主に繊維業種の営業を経験。2016年に現部署に異動。南部産業エネルギー営業部時代ではコージェネレーション導入、広域エネルギー営業部ではエネルギーセンターの契約延長などコージェネレーションサービスに深くかかわる仕事をしている。

※Daigasエナジー(株)は、2020年4月に業務用・産業用のお客さまに対するエネルギーや各種サービスの営業機能を大阪ガスから移管し、誕生した会社です。

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Daigasグループの「2050年脱炭素社会実現」に向けた挑戦
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