23.12.22
ガスからデジタルへ!
次代のインフラ構築を担う若き社員の挑戦 大阪ガスのデジタルプラットフォーム
「スマイLINK」から広がるビジネスの可能性
取材・執筆:Daigas STUDIO 編集部
大阪ガス(株)エナジーソリューション事業部 計画部 市場戦略チーム
油布 大誠
ガスや電気の供給、ガス機器の販売を中心に、エネルギーに関わるサービスを提供してきた大阪ガス。人々の暮らしに欠かせないインフラを支え続ける一方で、多様化するお客さまのニーズに応えるべく、新たなインフラの構築に挑戦している ――― 暮らしのデジタルプラットフォーム「スマイLINK」。そのビジネスは、お客さまの住まいと多彩なサービスをデジタルでつなぐだけではなく、飲食店ともつながり、今や地域に活性化をもたらすまでに広がろうとしている。そこには、大阪ガスへ入社してまだ間もない若者の、挑戦のドラマがあった。
CHAPTER
01
住まいの「便利・感動・安心」から始まった、
デジタルプラットフォーム
スマイLINK開発のきっかけは、コロナ禍でおうち時間の多様化・デジタル化へのニーズが高まったことだった。ネットショッピングなどのオンラインサービスに加えて、医療相談や家事代行などのオフラインサービスも充実。さらに「TV Stick」という専用のマルチデバイスを家庭のテレビに接続すれば、Netflixを視聴できる。しかもそれらのサービスは、大阪ガスの会員サイト「マイ大阪ガス」のID一つですべて利用でき、家庭のテレビから簡単につなぐことができる。TV Stickの月額料金がNetflix単体での料金と同額というお得さも大きな魅力だった。
そしてもう一つ、スマイLINKには、「住まいと多彩なサービスをつなぐこと」以外に大きな構想があった。それは、一般家庭のお客さまだけではなく、業務用でガスを使う飲食店というお客さまをもつないでお店の創客に貢献し、ひいては街の活性化をもたらすこと。大きな期待と希望を抱きながら、2022年3月、スマイLINKのサービスが開始された。
CHAPTER
02
大阪ガスのスケールとスピードで、
より良いサービスへ
「スマイLINKのサービス開始にあたっては、すべてが順調というわけではありませんでした。動画配信やネットショッピング、健康相談等、サービスが多岐にわたる分、連携する事業者数も多く、契約に至るまでの交渉には相当な時間を要しました。その際に大きな武器となったのは、大阪ガスがこれまで培ってきた強みと、将来的な拡販の可能性でした」。
こう語るのは、新入社員として市場戦略チームに配属された油布 大誠だった。彼が言うように、大阪ガスはガス・電気のエネルギー供給で大きな顧客シェアを持っていた。さらにスマイLINKは大手賃貸管理会社でも導入されるなど、横展開の可能性にも期待が持てた。顧客数、将来的な可能性というスケール感を強みに、油布ら市場戦略チームは各事業者との交渉を乗り切ることができたのだった。さらにサービス開始後も、油布はつねにサービスの向上に努めようとした。
「新たなデジタルプラットフォームということもあり、サービス開始後も想定よりお客さまの反応が低かったり、期待どおりの使い方がなされていないこともありました。より使いやすく、より満足してもらうために、もっと『お客さまの声』が聞きたいと考えました」。
油布はSNSを活用し、タイムリーにお客さまの感想や意見を集めていった。
「Netflixや健康相談について、『お客さまがどのようなイメージを抱いているか教えてください』という形でコミュニケーションを取らせてもらいました。SNSで誰からも見える形でアンケートを取るという方法はあまり例がないことですが、タイムリーにご意見をいただくことで、サービスの改善がしやすかったと思います」。
例えば、『テレビスティックで何ができるのか、サービスの全容が分かりにくい』というお客さまの声に対する改善策として、Webページを更新。サービスの全容に加えて詳細も分かりやすくすることで、更新前よりも契約数を増やすことができた。
このように、お客さまのニーズを正確に捉えることができ、以降のマーケティングに大いに活かすことができた。
CHAPTER
03
「いっとくパス」へとサービスを拡大し、
関西の飲食店を元気に
スマイLINK利用者、TV Stick契約者の数が順調に増えていく状況で、油布ら市場戦略チームはさらなるサービスの拡大に取りかかった。一般のお客さまだけではなく、スマイLINKのサービスを業務用のお客さま=飲食店へと広げることだ。
「Daigasグループと関西の飲食店は、ガス厨房などを通じて深いつながりがあります。toBとtoC、どちらともつながりのあるDaigasグループだからできることで、お客さまにも飲食店にも元気になってもらいたい。それをスマイLINKの新たなサービスとして実現させたのが、いっとくパスです」。
「いっとくパス」とは、2022年12月からスタートした大阪ガスの発行するデジタルチケット。チケットには、クーポンと商品券の2種類があり、チケットが使える加盟飲食店は、関西主要都市を中心に、和洋中オールジャンルで1,500店以上(2023年12月現在)。そのクーポンや商品券は、いっとくパス加盟店の飲食店で使えるので、お店の活性化につながるというものだ。いっとくパスの認知度向上をはじめとする利用促進に関しても、油布の企画力と情報発信力が大いに発揮された。
「加盟店とお客さまの両方を増やさなければなりません。まずは飲食店を顧客に持つグループ会社、Daigasエナジーの協力を得て、Daigasエナジーと関係の深い個店や、多くのお客さまが利用しやすい大型チェーン店を中心に加盟店を増やしました。そしてSNSでそのお店の商品券をプレゼントするキャンペーンを実施。お客さまの利用を促進するとともに、『いっとくパスで本当にお客さまが増えるのか?』という加盟店の不安を払拭できました」。
いっとくパスは、2025年の大阪・関西万博がもたらすであろう飲食店の活性化を見据え、1万店舗で利用できるデジタルチケットを目指している。
さらに、いっとくパス加盟店ネットワークが広がっていく中で、デジタルプラットフォームとふるさと納税を結びつけた「関西おでかけ納税」という新たな事業へも発展している。
大阪ガスへ入社して二年目の油布にとって、挑戦はまだ始まったばかりだ。彼が見つめる先には、さらに進化した未来のDaigasグループの姿が描かれているに違いない。
「Daigasグループがこれまでに実施したことのないデジタルマーケティング施策に取り組み、スマイLINK、いっとくパス、関西おでかけ納税、そして今後もさらに新しいサービスを、より多くのお客さまに提供していきたいと考えています。さらにスマイLINKのプラットフォームを活用した新たなサービスの開発も視野に、快適な暮らし、地域の活性化など、さまざまな社会課題に取り組んでいきたいです」。
私にとっての挑戦とは
油布 大誠
大阪ガス(株) エナジーソリューション事業部 計画部 市場戦略チーム
2022年入社以来、新規事業におけるSNS企画、Webマーケティングに従事。
現在は複数の新規事業におけるプロモーション戦略の策定、ECサイトの企画を担務している。
特別企画
挑戦者たちのクロストーク 大阪ガス✕宝塚市ふるさと納税の新しい形で
宝塚市の飲食店を応援
宝塚市役所 市民交流部 市民生活室
国民健康保険課 係長
上阪 和也氏(左)
大阪ガス(株) エナジーソリューション事業部
計画部 市場戦略チーム
油布 大誠(右)
「関西おでかけ納税」は、おでかけ前またはおでかけ中に専用サイトからふるさと納税をすると、税金の控除を受けつつ返礼が受けられる。返礼はモノではなく、飲食や観光といった「コト体験」に使える電子商品券(寄付額の30%分)がその場でもらえるという、新しい形のふるさと納税だ。ちょうど2023年1月に大阪ガスと兵庫県宝塚市が包括連携協定書を締結しており、宝塚市へ関西おでかけ納税を導入するべく、油布ら、いっとくパスのプロジェクトチームは、当時の市のふるさと納税担当者、上阪 和也氏らとの交渉にあたった。
「ふるさと納税の市場は大きく、他社もふるさと納税を活用したサービスを多く展開しています。従来のふるさと納税のスキームでは、特産品を持つ事業者が一人勝ちしている状態でした。そこで、私たちは地域の飲食店にも参画いただける『コト消費』型のふるさと納税を立ち上げました。決済手数料を0円とし、飲食店の負担を極力減らしている点も魅力の一つです」(油布)。
関西おでかけ納税に対する油布の情熱と誠意は、上阪氏ら宝塚市の担当者の共感を得て、3月から開始されることとなった。
上阪 大阪ガスのいっとくパスとふるさと納税を結びつけた「関西おでかけ納税」は、導入するだけではなくいかに加盟店を増やしていけるか、事業を広げていけるかが課題でした。
油布 加盟店をどう拡大するかという壁を乗り越えるために、上阪さんには非常に大きな熱意とスピード感をもってご尽力いただきました。現在は利用するお客さまへのプロモーションに力を入れていて、例えば現地でのおでかけの最中に「関西おでかけ納税」を知ってもらい、その場で寄付をしていただいて、その場で商品券がもらえるパターンをつくろうと考え、宝塚市内のホテルでのプロモーションも展開しています。
上阪 プロモーションで言うと飲食店への説明会を開催する際には、宝塚市と飲食店とのネットワークを活かして開催準備は宝塚市が受け持ち、説明会自体は大阪ガスと共同で実施するということもしました。
油布 大阪ガス単独よりも、宝塚市と共に実施していると地域の方々の信頼や協力を得やすいです。大阪ガスだからできることと、宝塚市だからできること、それぞれをうまく役割分担できましたね。
上阪 「関西おでかけ納税」は飲食店にとってメリットしかありません。私は宝塚市の飲食店の力になりたいという思いがありました。大阪ガスさんも、その気持ちは同じ。お互いが飲食店を支援したいという思いを共有できたからこそ、スピーディに進められたのだと思います。油布さんをはじめ大阪ガスのプロジェクトメンバーの方々が、加盟店の拡大やプロモーションによる認知度向上のために走り回ってくれたことが、うまくいった理由の一つだと思います。そしてこれまでのふるさと納税と違って、飲食店が参加できるようになったことはとても意義のあることだと考えています。
油布 ふるさと納税の返礼品での「モノ消費」から、飲食店へ行くという「コト消費」へ。多くの飲食店の方々がふるさと納税のメリットを得られる仕組みづくり自体が大切なことで、関西の飲食店へ「コト消費」を広げていくことは、私たちの使命だと思っています。
上阪 これからは「関西おでかけ納税」を活用した新しいお店体験で、”宝塚市の新しい魅力”が伝わればと期待しています。また、今回の事業を通じて、大阪ガスへの印象も変わりました。以前はインフラという少しお堅い会社のイメージでしたが、市場戦略チームの方々と出会い、新しい事業にも挑戦する面白い会社だなという印象を強く感じました。
油布 市場戦略チームには個性豊かな人々がいて、私自身もそうかもしれません。上阪さんに「いじりがいのある後輩が、市役所以外でできたのは初めてだ」と言ってもらえたことが、とてもうれしかったです(笑)。
未来への「挑戦者」たち / 過去記事