~「世界標準」をめざして、家庭用燃料電池の開発に挑む~
家庭用燃料電池「エネファーム」
DEVELOPER INTERVIEW
開発者インタビュー
「世界標準」をめざして、家庭用燃料電池の開発に挑む
家庭用燃料電池「エネファーム」
ガスから水素を取り出し、空気中の酸素と化学反応させて発電する家庭用燃料電池「エネファーム」は、同時に発生する熱を給湯や暖房などに有効利用できる環境に優しいエネルギーシステムです。
その先駆けとなったのが平成11年、大阪ガスによる燃料改質装置の開発でした。これを受けて当社は家庭用コージェネレーションシステムの開発プロジェクトを立ち上げ、商品化に向けて技術開発、検証を重ねて、ついに平成21年6月より一般販売を開始しました。開発に携わった技術者たちが、家庭用燃料電池の商品化を果たすまでの取り組みを語ります。
MEMBER
リビング事業部 家庭用コージェネレーションシステム開発部 PEFC開発チーム
-
課長リーダー
東口 誠作 -
課長
神家 規寿
世界で初めて、PEFC用燃料改質装置の
実用化を果たす
- 神家
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私は平成10年から家庭用の固体高分子形燃料電池(PEFC)の実用化に向けたプロジェクトに加わり、燃料電池に必要な水素を都市ガスやLPGなどから取り出す技術、すなわち安価で小型、高性能な「燃料改質装置」の開発に取り組みました。
【図解】燃料改質装置の改質プロセスフロー詳細はこちら
都市ガスの主成分であるメタンを水蒸気と触媒で化学反応させると、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)と一酸化炭素(CO)が発生します。業務用のリン酸型燃料電池(PAFC)は動作温度が200℃と高いので、COが5000ppm程度あっても電池に影響を及ぼさずに発電できます。しかし、PEFCは動作温度が80℃と低いため、電池への影響が非常に大きく、発電不能になってしまうので、COを10ppm以下まで除去する必要がありました。大阪ガス エネルギー技術研究所は早くからCOを選択酸化除去する触媒の研究開発に取り組み、約3年かけて高性能なCO除去触媒を開発。平成11年にこの触媒を最大限活かすべくCO除去反応器を最適化し、PEFC用の燃料改質装置の実用化に世界で初めて成功したのです。
改質装置設計の大きな課題はコンパクト化と製造コストでした。改質装置には、CO除去器のほかに脱硫器や水蒸気改質反応器など複数の反応器のほか、ボイラーや熱交換器なども組み込むため、コンパクト化しようとすると構造が複合的、つまり複雑になり、コスト高となるジレンマがありました。検討を重ねた結果、これらの反応器やボイラーなどの機器を、プレス加工と自動溶接で作った中空プレート容器(プレートエレメント)で構成し、一体化する方法を考案。世界で類を見ないプレートエレメントによるオールインワン構造を実現。量産時の製造コストも従来の多重円筒缶構造と比較して大幅に低減(当社試算)することができました(国際特許取得済)。
カナダの燃料電池ベンチャーで
発電テストに成功
- 神家
-
改質装置をオールインワン構造にしたメリットは他にもあります。装置内に組み込む反応器間に伝熱体を設けて積層構造にしたため、最高反応温度(約650℃)である改質反応器と、最低反応温度(約100℃)であるCO除去器の2点だけの制御が可能になり、遺失するエネルギーが最小限になったのです。さらにCO変成器とCO除去器の間に、スタビライザー(除湿器)を装着したことで、ガス中の水分の悪影響が少なくなり、CO除去触媒の活性がフルに発揮され、CO除去性能と安定性が飛躍的に向上しました。その結果、改質器出口のCO濃度を安定して1ppm以下に抑えることに成功。業務用PAFCに比べて5000分の1という、極限までの低減を達成したのです。
こうして燃料改質装置の実用化にめどがつき、平成14年頃から燃料電池システムメーカーさんに向けてライセンスの提供を始めました。その前年にはカナダの水素燃料電池ベンチャー企業から引き合いがあり、私はさっそく現地へ。訪問先では改質装置単体で性能確認をして頂く予定でしたが、現地の技術者から「CO濃度が非常に低いので当社の純水素仕様の燃料電池につなげてみよう」と突然の提案。当時、電池本体は相当高価でしたので、改質器のせいで壊すと大変なのですが、「ダメです」とは言えず引き受けてしまいました。しかし、発電準備中は内心は冷や冷やでした。持ち込んだのは手作りのプロトタイプ機ですし、初めての空輸でしたので、気圧差によって装置内に空気が入って触媒が傷んでいないか、とか、振動で内部耐火材が割れたりしていないか、とかいろいろ心配でしたから・・・。結果的には首尾よく発電できて、現地の技術者の方々に「素晴らしい」とお褒めの声をいただけました。この時の安堵感、達成感は今でも忘れられません。
【図解】シンプルな積層エレメント構造
(受賞技術名「家庭用燃料電池用小型改質装置」)エネファーム用大阪ガス改質器・改質触媒プロセスに対する社外表彰
・平成21年度 近畿地方発明表彰 発明奨励賞受賞「流体処理装置」
・平成21年度 大阪優秀発明賞受賞「家庭用燃料電池用小型改質装置」
・平成21年度 触媒学会賞(技術部門)受賞「燃料改質触媒システムの開発」
「世界を変える」先端領域で、
ものづくりに取り組む
- 東口
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私が担当したのは「燃料電池ユニット」のシステム開発です。燃料改質装置によって都市ガスから取り出した水素を使って、どのように発電を制御するか。加えて、ユニットの心臓部であるセルスタック(燃料電池本体)の能力を最大限に活かしながら、いかに軽量・コンパクトにパッケージするかが主要テーマでした。
当初は実験装置を手動で操作して、ガスから発電をする実験からスタート。次の段階では実用化に向けて、システムに組み込む流量計やポンプ、ブロアといった機能部品の開発に取り組みました。当時、家庭用燃料電池に使えるこうした機能部品は世の中になかった。そこで電話帳、業界紙、インターネットなどで、小さな町工場に至るまで片っ端から調べて、こちらの仕様通りに開発してもらえそうなメーカーさんを探しました。それに開発当初から「燃料電池は世界を変える」と言われた先端領域でしたから、リサーチのため米国まで足を伸ばして、現地の燃料電池ベンチャーを何社も訪問して提携先を探したこともありました。
開発段階に入って苦労したことの一つに水処理装置があります。燃料電池では水素(H2)と酸素(02)を化学反応させて電気をつくる際、水(H2O)ができます。これを回収して燃料改質器やガスの加湿に再利用するため水の循環経路を設けたのですが、循環するのは塩素を含まない純水。温度条件によってバクテリアが発生したのです。これはフィルター詰まりを起こし、メンテナンス性を大きく阻害します。最終的には水温制御で発生を抑える手法を採用したのですが、この課題をクリアするまで数年かかりました。【図解】燃料電池の発電の原理 詳細はこちら
【図解】エネファームの仕組み
安心安全・高効率なマイホーム発電の
本格普及を
めざして、さらなる開発へ
- 神家
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平成11年にPEFC用の燃料改質装置を開発し、さらに10年かけて発電効率やユーザビリティの向上、低コスト化に取り組む過程では、数え切れないほどのトラブルがありました。たとえば当社の改質器は都市ガスに加え、LPGにも完全に互換性があるのですが、その実現には、都市ガス、LPG、水素ガスを安定燃焼できる特殊で、しかも安価なバーナーの開発が不可欠でした。しかし試作段階では着火が不安定であったり、肝心のバーナーが熱で溶けてしまったこともありました。また、コストダウン改良機の水蒸気発生器(ボイラー)で、原因不明の突沸が発生し、ガスの成分が急変して発電が停止するトラブルもあり、システムメーカー様にもご迷惑をおかけしたこともありました。でもそうした困難な試練を乗り越えてきたからこそ、4万時間(約5年)以上の定格連続運転や加速劣化で9万時間の耐久性を実証できましたし、熱効率が定格で82%以上*、しかも10年間すべての触媒が交換不要と、メンテコストの低減も実現できたのです。現在、この燃料改質装置は国内はじめ韓国・カナダ・ドイツなどのPEFCメーカーに採用いただいていますが、さらに効率性、耐久性、低コストを追求して世界標準の家庭用改質器の完成を目指していきたいと思っております。
- 東口
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失敗は許されないという使命感と、世の中にないものを生み出す楽しさ。両方を感じながら開発を続けてきました。燃料電池を商品化するためには、発電性能や信頼性、コストもさることながら8万時間(10年間)以上運転できるシステムの耐久性評価が重要なカギを握っていました。その点については大阪ガスが蓄積してきた性能評価技術が大きな役割を果たしたと思います。また、平成17年から一般家庭における大規模実証試験を実施しましたが、設置先のお客さまはもちろん、当社の営業、施工、メンテナンスの各担当スタッフから寄せられた現場の声も、施工性やメンテナンス性、使い勝手の向上に大いに役立ちました。メーカーさんとともに改良・改善を重ねてきた結果、私たちの手がけた燃料電池システムが業界スタンダードとして認められつつあります。これからもさらなるコストダウンと信頼性の高いシステムを追求し、世界標準と認められる家庭用燃料電池ユニットの開発を進めていきます。
- *1~0.7kWシステム用で 定格82% 以上 (HHV)、0.25kW 時75% 以上 (HHV)
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